第90話 突然のイベント
「ん?今日は雨野さんいないのか」
SFOの世界から帰ってきて、ひとまずシャワーを浴びた俺はリビングでカップ麵を食べる寧衣を見てそう言った。
寧衣はそんな俺を見て、何を言っているのかという視線を投げかけてくる。
「当たり前でしょ?」
「当たり前なのか?そりゃもちろんいない日もあるけど」
当たり前という言葉の意味がわからなかった俺がそう答えると、寧衣はコテンと首を傾げる。
「あれ?お兄ちゃん聞いてないの?」
「ん?いや、何も言われてないと思うが」
「ホントに⁉この後顔合わせするって話だよ?」
「顔合わせ…………?」
俺は顔合わせというワードに全く心当たりがなく、戸惑いの顔を浮かべることしかできなかった。
「あれー。私は雫ちゃんから言われたんだけどー。お兄ちゃんに伝え忘れ…………あっ」
「あっ?」
突然素っ頓狂な声を上げた寧衣の真似をして真意を問うと、寧衣は悪びれる様子もなくこんなことを言ってのけた。
「そういえばお兄ちゃんにも伝えといてって言われてたんだった!あはは!」
「あはは!じゃねーよ」
「ごめんごめん!この後23時からギルドメンバーとの顔合わせあるから!予定大丈夫だよね?」
「まあ予定はないから大丈夫だけどな…………」
流れに任せて文句でも言ってやろうかと思ったが、やめておいた。どうせ寧衣のことだから、何を言っても反省しないだろう。
そんなことよりも、ギルドの話だ。俺にとっては完全に寝耳に水だが、おそらく今までの流れ的にネイカが主体となって進めている話なのだろう。となると誘っているのは寧衣の知り合いかネイカの仕事仲間───つまりは他のVRゲーム配信者と考えられる。もしかしたら、俺でも知っているような名前が飛び出してくるかもしれない。
俺がそれを問うと、寧衣は俺の予想に首を横に振った。
「誘ったのは知り合いとかではないかな。まあ、お兄ちゃんが知ってるって意味では正解だけどね。サキちゃんかまちゃんとアイリちゃんも誘ってるから」
「そうなのか。アイリとは前から話決まってたのか?」
前からというのは、あのイベントで顔を合わせる前からという意味だ。
そしてその質問を聞いた寧衣は、先程に続けてまた首を横に振った。
「実はあの日にすぐ声掛けたんだよね。二つ返事でオッケーだったよ」
「へー…………そういや初対面って言ってたな」
「そうそう。まあ誘ってるのは配信者だけだけど、知り合いというよりはSFOで出会った人をメインで誘っていく予定。私の知り合いばっかり集めても、私以外が気まずくなるでしょ」
「たしかにそうだな」
俺としても、妹の友達の輪の中に一人放り込まれたらと思うと辛いものがある。
そんな寧衣の気遣いに内心で感謝していると、次の一言でその気持ちを丸ごと投げ捨てられることとなった。
「あ、でも今仲いい人誘ってる」
「誘ってるのかよ!全然いいけど!」
「あれだよあれ。今日のレヴリカ王国の方に行くって話、サキちゃんかまちゃんとかアイリちゃんチームは今西方面にいるらしいから、普通に今までもよくコラボしてた人誘おっかなって。そのついでにギルドにも」
「そうか。まあ寧衣に全部任せるよ」
あくまでこれはネイカの配信業なので、俺が口出しするようなことでもないだろう。
とはいえ、サキ&かまやアイリなど、俺とも面識がある人がいるのは少し安心だ。というか、SFOで知り合った人ということは今のところはそれしか誘っていないのだろうか?
なんて俺の疑問も、顔合わせでわかることだろう。ちなみに俺の予想では、きっと寧衣の知り合いも少しはすでに誘っていると思っている。リスナーへの需要を考えても少しはいるべきだと思うし、今まで配信でコラボした人だけだと紹介する時のも盛り上がりに欠けてしまうからだ。
「…………ところで、その顔合わせってどこでやるんだ?リアルなのか?」
「違うよー。SFO内ではちょっと無理だから、VMでSFOのアバター持ってきて軽く顔合わせするだけ。…………もしかして、リアルで知り合いたかった?お兄ちゃんってば…………」
「ちげーよ」
寧衣の揶揄いを一蹴すると、俺も何か食えるものを漁るべくキッチンの方へと足を進めた。
ちなみにVMというのは、Virtual Meetingというバーチャル空間上で話し合いができるだけのシンプルなサービスだ。ただ、そこで使えるアバターを他のバーチャルコンテンツのアバターとリンクすることができるため、多くの人に愛用されていたりする。
俺は突然降って湧いてきたギルドメンバーとの顔合わせというイベントにどこか心を躍らせながら…………カップ麵くらいしか食えるもんねぇじゃねぇか。いや、もう俺も立派なこの家の住人だし、文句を言える立場じゃないか…………雨野さんに頼りっぱなしじゃなくて、自分でも家事をしていかないとな。寧衣の生活に口を出せる立場じゃなくなっちまう。
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