第91話 顔合わせ


「ごめんごめん!みんなお待たせー!」


 23時直前。時間にルーズなネイカをなんとか引きずり出してVMの会議室までやってきた俺とネイカは、慌てたような挨拶と共にその輪の中へと入っていった。

 ネイカの挨拶からして、おそらく声を掛けた全員が既に集まっていたのだろう。そう思って周囲を見渡してみると、見知った顔が三つ、見知らぬ顔が四つといった具合だった。見知った顔というのは、もちろんサキとおしゃかまとアイリだ。

 席へと移動しながら目が合った人に軽く会釈をしていくと、やがて俺のネームプレートが置かれた席に…………いや、これは俺の名前じゃなくてネイカ兄という肩書か。とにかく自分の席へと腰を下ろした。

 そして俺の隣にネイカが座ると、ネイカの言葉によりギルドメンバーの顔合わせが始まった。


「えーっと、とりあえずみんな来てくれてありがとう!話は雫ちゃんから聞いてると思うんだけど、今回は私が主催となって配信者で集まるギルドを作ることにしましたー!ギルド名は未定です!」


 ネイカの挨拶に、パラパラと拍手が起こる。


「一応方針としては、普段は各自で配信活動をしながら、協力が欲しい時は助け合ったり、イベントで協力し合ったりって感じで予定してまーす。あ、あとこの場にはいないんだけど、姫宮イルと天音コロっていう子がついさっき加入することになったから…………雫ちゃんよろしく!」

「はい」


 雫ちゃんって雨野さんのことだよな?と思いネイカの視線の先を追うと、そこにはSHZKという名前が表示されている人が座っていた。SHZKでしずくってわけか、なるほど。


「とまあこんな感じで、ギルマスは私だけど実権は全部雫ちゃんに丸投げしてます!みんなも誘いたい人がいれば、遠慮せずに雫ちゃんに言ってくださーい。じゃあみんな挨拶!お兄ちゃんから時計回りで!」


 そう言って、ネイカが右隣に座る俺を指名する。

 俺はどうしたものかと少し考えてから、ネームプレートを掲げるようにみんなの方へと見せた。


「ネイカの兄です。立場的にはネイカのサポートってことであm…………雫さんと似たような感じですかね。配信とかはネイカの手伝いで初めてやったことなので、まだ慣れてない部分も多いです。スキルは魔法獣オンリーでやらせてもらってます。進行はクルド帝国方面で…………こんなもんですかね?」

「うんうん。いいんじゃない?まあ詳細はお手元の資料で!」


 ひとまず思いつく限りの自己紹介をすると、ネイカからもOKの言葉が送られてきた。

 お手元の資料というのは、雨野さんが作成したと思われる参加者のSFO内データの資料だ。現在のレベルや、所得しているスキルなどの詳細がかかれている。


「じゃあ次、サキちゃん!」

「サキです。隣にいるかまちゃんとコンビでVRゲームの生配信をやってます。スキルは格闘メインのナックラースタイルです。最初はクルド帝国の方を攻略してましたが、今はニューベック王国の方に来てます。よろしくお願いします」

「サキちゃん硬いよー!」

「…………そうかな?」


 ネイカのヤジにポカンとした表情を浮かべるサキ。

 めちゃくちゃ硬い挨拶だと俺も思ったが、それは俺にも同じことが言えるだろう。やはり初対面の相手がいると、こんな挨拶になるのは当然だと思う…………が、ネイカにとっては違うんだろうな。


「次、かまちゃん!」

「おしゃかまでーす!さっきサキからも説明あったんですけど、サキとコンビで配信やってまーす。刀と弓の和風スタイルでやってまーす!よろしくお願いします!」

「かまちゃん硬いよー!」

「これでも⁉」


 そんなやり取りで、会場内に笑いが起こる。

 奥にいるアンナという名前が表示されている人が軽くネイカを非難する冗談を挟むと、次の人の自己紹介へと移った。


「皆様初めまして。私はきゅーと申します。SFOではこちらのお二方とチームで、生配信をやらせて頂いております。メイン武器は槍。前衛を担当しています。攻略はニューベック王国の方から始め、つい先日フォリン連合国の方に足を踏み入れたところです。どうぞよろしくお願い致します」

「きゅーさんよろしくねー!」


 そう挨拶をしたきゅーという人は、ゴスロリを見に纏った高貴な雰囲気を漂わせている人だった。こちらのお二人といって示したのは、もちろんそこから並ぶように座っている二人で、その片方はこの前のイベントで知り合ったアイリだ。

 そして、次はそんなアイリの番が回ってくる。


「どーもー!アイリでーす!こっちのきゅーたんとこっちのタラバちゃんとのトリオでやってまーす!純正ヒーラーで、ポリシーは『攻撃スキル0!』です!よろしくー!」

「アイリちゃんいいよー!」

「いえーい!」


 アイリは思わずこちらも笑顔がこぼれてしまうほどの元気な挨拶で、場の空気が一気に明るくなったのを感じた。ネイカも堅苦しい雰囲気よりはみんなで仲良くやりたいという思惑があるようなので、とても嬉しそうだ。

 にしても、きゅーたんとは…………全然そんな呼び方をされるような雰囲気の人ではないと思うのだが。


「じゃあ次!タラバちゃん!」

「は、はいっ!えっと、タラバっていいます…………あの、その…………本スキルをメインで取ってますっ!えと…………よ、よろしくお願いしますっ!」

「かわいー!」


 ペコリとお辞儀をするタラバ。その姿はネイカの思惑に頑張って応えようとしていることが透けてわかるもので、微笑ましいという他にない姿だった。

 まさに、「かわいい」だ。


「次はアンナ先輩!」

「はーい。私は他の皆さんとはちょっと違って、生配信ではなく動画投稿というスタイルでやっているアンナという者です。撮影や編集をしてくれているアシスタントの方が他に二名いるのですが、ギルドに参加するのは私だけですね。ただコラボなどをする際にその二人とも顔を合わせる機会があるかと思いますので、先にお伝えしておきますね」

「永井さんと峯さんだね!二人とも元気にしてますかー?」

「ええ、変わりありませんよ。SFOでのプレイスタイルは、ソロということで色々なスキルに手を出してます。攻略は噴水広場から北のライン公国という方ですね。皆さんよりは少し歳が上ですけど、コラボ等気軽に誘ってくださいね」

「はーい!というわけで、アンナ先輩でしたー!」


 アンナ先輩、か。

 俺は今までネイカの方がどこか上の立場というシーンしか見てこなかったので、どこか不思議な気分だ。妹の先輩…………そして、おそらく俺よりも上の人だろう。なんとも接し方に困る立ち位置の人だ。


「はいじゃあ最後!雫ちゃん!」

「皆様初めまして。ネイカさんのアシスタントをやらせていただいている者で、雫と申します。今回はこのギルドの管理役を承ることになりましたので、皆様も何かがありましたら何なりとお申し付けください。SFOの方はあまりプレイしていないのですが、一応生産系のスキルを取って皆様をサポートできればと考えております。よろしくお願い致します」

「みんな、意見要望なんでも雫ちゃんに言いつけちゃってね!というわけで、顔合わせはこんなものかな?各自個人的な用事があれば、この後しばらくこの会議室開けとくから自由に使ってねー。じゃあ解散!」


 本当に目的はお互いに顔を合わせることだけだったようで、挨拶を済ませただけで会議は解散となってしまった。時間にして十分もないくらいだ。なんなら、手元の資料を見る暇さえなかった。

 俺はせっかくならということで、その資料を眺めてから会議室を後にすることにしたのだった。

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