第89話 配信 今後の予定


 俺たちはその後しばらくクルルの街周辺を散策してみたが、結局ライトニングスライムともレッグドロンとも出会うことはできなかった。解析できたあの謎の影とも、あれ以降一度も出会えていない。


「まーとりあえずクルルの街に入っちゃう?今日はもう遅いし」

「そうだな」


『終わり?』

『まだやれ』


 朝にフォスカーのクエストを裏で進めてから、昼にイベント配信。そしてそこからなんやかんやと色々あったので、今日も既に一日の半分以上をSFOに費やしてしまっている。

 こんな生活にももう慣れてきてしまっているが、冷静に考えると脳や身体への影響が不安になってくるレベルだ。


「とりあえず街に入ったら、その辺のカフェで今後の作戦会議でもして終わろっか」

「作戦会議って?」


 てっきりこのままマルナ王国を進んでいくものかと思っていた俺は、オウム返しのようにそう答えた。

 するとネイカは、何を言っているんだとばかりの視線を俺に向ける。


「お兄ちゃん、私たちもう30後半なんだよ?」

「ん?…………ああ、レベルの話な」


『アラフォー⁉』

『レベルか』

『ビックリした』


 ネイカのややこしい言い回しに振り回される俺とリスナーたち。

 しかしネイカはそんなことを気にもとめず、言葉を続けた。


「ここからがMMOの一番面白いところなんだからね!序盤とか終盤は取れる行動の選択肢が狭くて、ああそれはそれで面白いんだけど、この色々手を出せるようになってくる中盤からが──────」

「はいはい。まずは街に入ろうな」


『わかる』

『そういや竜の試練も最低推奨レベル30だっけ』

『まだ噴水から東しか来てないし西も見てみたいよな』


 興奮した口調で語りだすネイカをなだめながら、クルルの街へと入って落ち着ける店を探す。

 適当に大通りを歩いて見つけた店に腰を下ろすと、さっそくその作戦会議とやらが始まった。


「とりあえずイベント期間中に装備揃えたいんだよね!」

「いきなりだな」


『たしかに今のもうだいぶ前に揃えたやつだよな』

『こっちになんかあてあるん?』


 開口一番、初めて聞く話をぶっこんでくるネイカ。

 今俺たちが装備しているのは、アールの街で貰った中級シリーズの少し上位に位置する装備で、狙って集めたわけではないので各部位のシリーズはバラバラだ。むしろバラバラだからこそ、属性耐性なんかがほとんど0で偏りがない故に使い勝手はいいのだが。


「でもやっぱり、ここから先は武器も防具も耐性ごとにちゃんとシリーズ揃えて行かなきゃ厳しい段階に入ってくると思うんだよね。まあお兄ちゃんは防具だけでいいけど」

「まあそうだな。でもその代わり、また色々魔法獣取っていかないとって話になるんだが」


『うへぇ』

『SPくれ定期』


 とはいえ、SPの話はどうしようもないので一旦置いておこう。

 ネイカは配信画面にクルド帝国からマルナ王国にかけての地図を開くと、悩ましそうな手つきでその地図を弄り始めた。


「うーん…………装備欲しいって言ってもこの辺の情報全然ないんだよねー。情報出てる辺りだとレベルの低い装備だし」

「まあしょうがないよな。ドロップ装備は運に任せるしかないし、シリーズで揃えるならやっぱ素材集めて作ってもらう方か?」


『さっきのでだいぶ集まったんじゃない?』

『装備どんくらい素材集めればいいんだっけ』

『百狩りじゃ足りんやろ』


 そもそも素材をドロップするのにも確率があるので一概には言えないが、百狩りじゃ足りないというのは正しい意見だろう。それに、こういったものは装備が強くなるにつれて素材の要求量が増えていくのが定石なので、今までですら百狩りでは足りなかったことを考えると、まだまだ足りないという結論は自明だ。


「とりあえずこの後鍛冶屋に寄って話聞かないとね。あとは近くにボス祠でもあれば、誰か誘って周回するのもありだね」

「ボスかー」


『ボス戦見たい』

『レベリングにもなるしな』

『竜の試練の方は装備ドロップとかないんかね』


 ボス祠というのは、サキ&かまとコラボした時にやったやつの総称だ。フィールドを徘徊しているタイプのボスモンスターもいるので、それと区別するようにそう呼ばれている。

 そしてボス祠にいるボスは低確率で何かをドロップするのだが、これは直接的に装備だったり装備を作るための素材だったり、はたまた装備とは何の関係もないアイテムだったりもするので、最先端のボス祠を周回するならば、その目的はレベリングがメインとなるだろう。

 ネイカはそこいらで装備の話を切り上げると、今度は別の話を始めた。


「とりあえずあれだね、やりたいことをリストアップしておこう!」

「やりたいことね。当面はSPと装備集めで、あとは竜の試練か?」

「私人外NPCも探したいんだよねー」

「人外NPC?」

「そうそう。アイリから聞いたんだけど、精霊とか悪魔とかもこの世界にいるんだって」

「へー…………っていつの間にアイリと仲良くなってたんだ?」

「えへへ」


『お?』

『これは』


 ネイカの含みを持たせた笑いに、期待のコメントが集まる。

 しかしネイカはそれ以上言及するつもりはないようで、話題を元に戻した。


「でもその辺の情報もやっぱ全然出回ってなくてさー。とにかく新天地で何かいないかって探したい!」

「じゃあちょっと無理して遠出を…………するためにまずは装備って話か」

「狙い目決めてそこに有利そうな装備ぱっぱと作りたいね!それかすぐ作れそうな装備作って、それが有利そうな場所を攻めるか!」


『地図』

『地図広げろ』


 そんな指示コメントに言われるまでもなく、地図を拡大していくネイカ。


「んー。ここからだと東のゴルゲムス山か南に降りてマリナル海かな?」

「ここからさらに南東のロインの街ってとこが王都なら、そこ目指すってのもありか?」

「うーん…………でもあんまり帝国を離れすぎてもねー。アーシーの話だと内乱が激化するのは二週間後くらいって話だけど、その話ももうよくわからなくなってきてるし」

「そうか…………となると竜爺がいるのは西のニューベック王国だし、しばらくは手出せないな」


『悲しい』

『内乱終わった後も戦争来るならしばらく動けないのか?』

『そもそも俺らの力がまだ必要なのかどうかもわからんしな』

『異業が協力するってだけの話なら俺らが行くのでもよくないか?』


 盛り上がる議論。たしかに先程ネイカの言ってた、「色々手を出せるようになる中盤が一番楽しい」という話も、既に頷けるレベルの盛り上がりだ。ただ、今後のプランを立てているだけだというのに。


「そうだ!いっそ戦争が起こるならレヴリカ王国に行っちゃうのは?あっちは帝国と一番近いとこでも適正レベル50ちょいだけど、装備揃えて無理すれば行けなくもないよね?」

「二人だとちょっと厳しくないか?いや、俺の魔法獣次第なところもあるが」

「んー…………イベント終わったらギルドの話を本格的に進めようと思ってるんだけど、誘ってる人の中でこの話に協力できる人募集してみようかな?」


『いいね』

『誰誘ってるの?』


「そこはまだ待ってて!」


 逸るリスナーに待てをかけるネイカ。

 …………というか、俺もその話初耳なんだが?誰なん?

 などという俺の心の声がネイカに届くはずもなく、ネイカはその話を更に突き詰めていく。


「レヴリカ行くならマンセットの街かユレン村だよね。この辺は結構平地っぽいから色々出てくるモンスターも多そう」

「今までのパターンからすると平原なら無・水・風・地・植物・虫あたりがメインになってくるか?」

「まー火・闇・氷いがいは割と何でも出てくるからねー」


『いっそ今の平坦スタイルでもいい』

『下調べ行くのも大変だしな』


 SFOにももちろん属性という概念はあるのだが、これがやたらと複雑なのだ。しかも属性と一括りに言っても、そこから更に第一属性と第二属性に分かれている。基本的な分類となる第一属性は十三種類もあり、もはや愛称を覚えるだけでも一苦労だ。


「とりあえずまずは装備集めからで、今日協力募ってみるからそれ次第でまた考えよっか」

「そうだな。協力してくれるならその人の装備も必要だろうし、早めに話し通しとかないとだよな」


『おk』

『終わりか』


 今後の予定をそう軽めに纏めた俺たちは、今日の配信を終えて束の間の休息に入るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る