第87話 配信 魔法獣と育成方針


 人柱になるとは言ったものの、考えなしにポイントを振るのでは意味がない。

 そこで、派生するスキルの条件の予想をネイカやリスナーたちとまとめた結果、こういう予想となった。もちろん、派生スキルを獲得する条件が元となるスキルのレベルを上げることという前提条件は疑わないものとしている。


 ・『ブレイズラッシュ』の件を考える限り、派生するスキルは元となるスキルにある程度関連付けられている

 ・元となるスキルを複数と仮定した場合、関連性の薄いスキルを合わせることで派生するという可能性(この際に魔法獣スキル+魔法獣ではないスキルで派生するパターンも考慮されたが、今回は除外する)

 ・『ブレイズラッシュ』は、一言で言うならば火炎乱舞斬りといった感じのスキルなので、火炎要素の『ファイアーボール』と斬り要素の『アサルトスラッシュ』から来ている。○○(何かの属性要素)斬りというのは比較的想像しやすいスキルなので、魔法獣の場合もエレキゴーレムのように(属性的な要素)+(モンスター種)という想像しやすい組み合わせになるのではないか

 ・前述の『想像しやすい』という点において、例えばスライム系魔法獣を複数極めることでマスタースライム的なその種族内の上位格と思われる魔法獣に派生するという可能性も考えられる

 ・普通のスキルと違って、魔法獣は魔法獣自体が獲得可能なスキルが五つ用意されている。これらすべてが10レベルまで用意されているので合計で50レベルまであるわけだが、同時にセット可能なものは二つまでなので、20レベルを派生に必要なレベルと仮定する


「こうなってくると…………狙い目は属性シリーズか?俺も全部把握できてるわけじゃないが、例えばエレキゴーレムは普通にいるのにアイスゴーレムは一覧に載ってないとかだと怪しいよな」

「それを言うならプチとかミニ系もじゃない?プチハンターだけあってその上位っぽいのがないのはちょっと変だし」


『一覧見ていくか』

『普通のスキルよりは派生の手掛かり多そうだな』

『これで普通の魔法獣みたいに元と全く関係ない条件だったら笑える』


 最後のコメントの可能性は、十分にあり得る話だ。というのも普通にロックされているスキルの解放条件は、例えば『アサルトスラッシュ』なら『スラッシュ』でクリティカルヒットを何回出すといったわかりやすい条件なのだ。運営はなぜ魔法獣だけこんなにも面倒な仕様にしたというのだろうか。誰も使わないと思ったのか?


「んー…………ゴーレム系はだいたい普通にありそうだな。むしろこいつら全部上げてゴーレムキングみたいなのが派生するって感じかね」

「猫って異常シリーズが用意されてるんだね」

「そうなんだよなー。一時期毒系モンスター狩りたいって言ってた時期あっただろ?」

「あったねー。あれ毒猫狙いだったんだ」

「ま、お祈りだけどな」


『猫くれ』

『てかレア魔法獣の情報出回らんのか?』


「レア魔法獣は全くだねー。メタルバードも入手報告少ないんでしょ?」

「らしいな。対応するレアモンスター解析で低確率とか言われてた気がする」


『俺らはめっちゃ運良かったのか』

『そろそろメル級のやつ欲しいよな』


 もちろん、レアモンスターだからといってレア魔法獣が手に入るわけではない。レア魔法獣をアンロックできるレアモンスターを解析して、そこから更に低確率でという意味だ。

 また、今回の話には関係ないが、解析レベルはボーダーラインとレベルによる確立上昇があると言われている。例えばモンスターAを解析するとして、そいつの解析ボーダーラインが3なら、解析レベル3未満では確実に失敗し、3以降は解析レベルが高いほど解析成功確率が上がるという話だ。解析の成功には確率があるというのは俺もすでに確認済のことで、何回か解析を試すと成功するという場合もあるのだ。とはいえ、大抵は一発で成功するので、確率の方はレア魔法獣のために用意されていると言われている。

 ちなみに、この仕様が魔法獣関連の情報が全然出回らないことの一つの要因となっている。解析レベルを上げてしまうと二度と下げることはできないので、ボーダーラインの検証が難しくなっているという次第だ。


「ぱっと見属性系の穴はなさそうだな。やっぱプチハンターか?…………いや、強化されるって点ではミニエンジェリックの方が期待できるか」

「たしかに!シンプルにバフとリジェネ強化されたらかなり強くなりそうだよね」

「なんなら重ね掛けもできるようになるからな。二枠使えば」

「テンシちゃん強化いっちゃう?」


『いいね』

『無駄だった時のために普通に使える奴強化したいしな』

『プッチはそのうち器用貧乏になりそうだしテンシの方が未来ある』


「よーし…………つっても20は遠すぎるわ」

「要求量普通のスキルと大差ないもんね。メルちゃんとか次いくつ必要なの?」

「76」


『www』

『もう無理だあ』

『メルで何レべ?』


「メルは26かな。ブレイブアタック10攻撃強化8突風8。てかまだエクストラスキルも解放されてないんだよな。これどうなってんだよ」


 エクストラスキル(と俺が勝手に命名した)というのは、魔法獣ごとに設定されている目玉スキルのようなものだ。先程獲得した眠り猫でいうなら、『ニャイトメア』がそれにあたる。このエクストラスキルは、獲得するためのポイントも高く、最初はロックされた状態となっているのだ。というか、アンロックされた試しがない。

 しかも、ネイカの言った通り魔法獣のスキル獲得に必要なポイントは普通のスキルとそこまで変わりがない。それに対し、普通のスキルは10レベルまでだが魔法獣のスキルは合計で50レベルまであるのだ。もはやエンドコンテンツである。


「まあとりあえずはテンシにぶっぱしていくか。どうせ情報待ってても誰も検証しないしな」

「じゃあまたSP稼ぎ回しないとだね!」


『魔法獣の第一人者』

『26まで上げてる人兄以外におらんやろ』

『それでいこう』

『レア魔法獣簡単に手に入れば話は早いのに』


 そんな風にネイカやリスナーたちの後押しを受けて、俺は温存していた分のSPをミニエンジェリックの強化に注ぎ込む。


「とりあえず16が今の限界だなー。祝福10の…………光魔法かテンシ自体の耐久上げるか」

「魔法攻撃は?」

「さすがに低いなー。耐久底上げしとくか」

「そだね」


『バフ結構上がるな』

『相変わらずリジェネが微々たるものすぎて泣ける』

『リジェネ高ければねねことの相性もよさそうなのにな』


 などと今後の方針を決め終えた辺りで、俺たちは『アリーの森』まで帰ってきたのだった。


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