第86話 配信 派生(合体)スキルの噂
「せっかくなら新しい魔法獣でも取ってみるのもありだよな」
『あり』
『ためとけ』
『ねねこ強化しとけ』
何を強化するかという話を突き詰めた結果、俺は現状で満足しているという結果に落ち着いてしまった。SPがもっと多く手に入るなら強化したいものも多いのだが、いつどの程度のSPが取れるかわからないので、妙にSPを使うことに慎重になってしまうのだ。
そんな中でまだ解放していない魔法獣の一覧を眺めていると、ネイカがふと思い出したように口を開いた。
「そういえばお兄ちゃん、合体スキルって知ってる?」
「合体スキル?」
『なにそれ』
『今話題のやつか』
合体スキルという言葉には心当たりが全くない俺と、コメントを見るに知っている人と知らない人の割合が半々といったリスナーたち。
ネイカはそんな俺たちの反応を受けて、合体スキルに関しての説明を始めた。
「あれは三日前だったかな?とあるプレイヤーがめちゃくちゃ強そうなスキルを手に入れたっていう話を出してきたんだけど、いつどこで手に入れたのかわからないって話だったんだよね」
「なんだそりゃ。普通はアンロックされたら通知が来るはずだよな?」
俺の言葉の通り、普通のロックされているスキルをアンロックした時は、アンロック後にスキル一覧を開いた際に軽い通知が来る。これはアンロックの条件を満たすと自動でロックが解除されるという仕組みにより知らない間にスキルが解放されていたという状況を防ぐというのと、大量に存在するスキルの全てを事前に把握しておくのは不可能に近いので、アンロックされた際に通知を送ることでどんなスキルがアンロックされたのかを簡単に知らせるためだと言われている。
つまり、『いつどこでどんなスキルを手に入れたか』というのは、運営の手によってわかりやすくされているはずなのだ。
「そうなんだよね。しかもその手に入れたスキルっていうのも問題で、普通のスキル一覧には載ってないスキルだったって話なの」
『ほえー』
『シークレットスキル的なものか』
『そんなのまで用意されてるんですね』
スキル一覧というのは、その名の通り全てのスキルの一覧だ。SFOではロックされているスキルでもスキルページに全て載っていて、そこでスキル名とアンロックの条件を確認することができる。
そして、ロックされているスキルをアンロックした場合、アンロック条件の記載は削除され、その代わりにスキルの説明が記載されるのだ。もっとも、アンロック条件の記載と言ってもそれはスキル説明文のような大雑把なもので、大抵の場合役に立たないのだが。
「アンロック条件不明のスキルか…………でも、そいつの行動履歴を探れば見当はつくんじゃないか?」
「うん。それで掲示板の人たちが探った結果、特定のスキルを特定のレベルまで上げる───その人が手に入れた『ブレイズラッシュ』っていうスキルだと、『ファイアーボール』と『アサルトスラッシュ』と10まで上げれば手に入るんじゃないかって言われてるの」
「なんだそりゃ…………」
『www』
『そいつはなんでその二つを上げてるんだよ』
そのコメントは、おそらく全ての人が最初に抱いた感想だ。
SFOでは単に攻撃力といっても三種類用意されており、『近距離物理』『遠距離物理』『(距離を問わず)魔法攻撃』という三種類に分かれている。今回の場合、『ファイアーボール』は魔法攻撃、『アサルトスラッシュ』は近距離物理といった具合だ。
そして、基本的には所持している武器によって上がるステータスは一つだ。例えば片手剣なら、装備している武器によって得られるステータスは近距離物理のみとなるので、当然スキルも近距離物理を参照する攻撃で固めるのが定石となる。もちろん片手剣を装備しながら魔法攻撃が上がるパッシブスキルをつけて魔法攻撃もするということは可能だが、リリースされてから間もない現段階で、しかも10まで上げているというのは正しく変人のやることだと言えるだろう。
…………もしくは、そのプレイヤーが隠しているだけで、複数の攻撃力が上がる装備を所持しているという可能性もあるのだが。
「そりゃあ、10までって言われるとそう簡単には検証できないわな」
「それに、本当にスキルの取得だけが条件なのかもわからないし、簡単には手を出せないよねー」
「…………それで、その合体スキルがどうしたって?」
確かに面白い話だが、俺には関係のない話だ。
なぜなら、俺は『ファイアーボール』も取っていなければ『アサルトスラッシュ』も取っていない。それどころか、何か強力なスキルに派生しそうなスキルなど、一つも──────
「魔法獣もさ、合体しそうじゃない?」
『ある』
『同種族の魔法獣取ってればそれ系の強力な魔法獣に派生とか?』
『そういえば、プッチとかなんでプチ?って感じだしな』
『プチハンターレベマでハンターになるとか?』
そんな風に考えていた俺を一蹴するように、ネイカはあっけらかんと言いのけた。
そして、リスナーもそれに便乗する。俺もそのコメントの流れを見て、その話が妙に腑に落ちた。
「たしかに『プチ』とか『ミニ』とか、なんか幼体というか進化前というか、そんな感じのが妙に多いよな」
「そうそう!最初は序盤のモンスターを解析してるからなのかなって思ったけど、もしかしたらこの合体スキル…………いや、派生スキルって言った方がいいかもね。必要な条件が複数のスキルとは確定してないんだし。…………とにかく、この話を聞いて魔法獣ってこのシステムで強くなってく仕組みなのかなって思ったんだよね」
「あるなぁ、それ」
『あるわ』
『それだ』
『一点強化すべ』
元々俺は、そんなシステムだとは露ほども思っていなかったので、まずは広く浅くで強化し、ある程度強みを理解したら使えそうな魔法獣を一気に強化していくという方針を取っていた。
しかし、この話が本当だとすると話は変わってくる。例えば『プチハンター』を強化していくと『ハンター』という魔法獣が手に入るという仕組みなら、そもそも『ハンター』を解放しない限りはその魔法獣が強いかどうかも判別できないのだ。
そしてその情報も不足している以上、次の段階が用意されていそうな魔法獣を一点強化するというギャンブルをしなければ、強い魔法獣が手に入らないということになってしまうのだ。
しかも、この話に俺はかなりの納得を示していた。なぜなら、現状『メタルバード』とその他の魔法獣では明らかな差があるのだ。もちろん『メタルバード』はレア魔法獣だから強いということもできるのだが、それにしても明確なまでの差がある。これを『メタルバード』はレア魔法獣なので、派生しないが最初から強い魔法獣だったと仮定すると、格差があるのも納得できるだろう。
「派生か…………いやー、ありそー…………」
「なんか嫌そうだね?」
「だってさあ…………情報くれー!」
『www』
『このゲームいっつもこれ』
『スキル検証はきっつい』
『無駄に上げちゃった時のショックよ』
俺はしばらく確定もしていないその情報に嘆くと、迷いを振り切るべくこう宣言をした。
「よし…………俺が人柱になってやらぁ!」
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