第82話 配信 『予言の巫女』というスキル
「にゃにゃ…………アタシもアーシーから聞いた範囲でしか知らないんにゃけど、それで大丈夫かにゃ?」
そんな前置きをしたキャビーに頷きを返すと、キャビーは必死に思いだすような仕草をしながらぽつりぽつりと話し始めた。
「前に『このままの未来』と『もしもの未来』を見る能力があるって話はしたにゃよね?」
「うんうん」
「『このままの未来』に関しては、そのままの意味にゃ。『もしもの未来』の方は、アーシーが何かの行動をすることでどうなるかを見ることができるらしいのにゃ」
「まあ予想通りだね」
『知ってた』
『なんでも見れるんか?』
『どうやって見せてんだ運営は』
キャビーの言葉に、様々な反応を示すリスナーたち。
そのコメントは懐疑的なものが多く、やはりリスナーたちも未来を見るということを受け入れられないようだ。
「ちょっと質問していいか?」
「もちろんにゃ」
「『このままの未来』って、どんな未来でも見れるのか?例えば帝国じゃなくて、王国の未来とか…………」
「それはできないらしいにゃ。スキルを使うと帝国が滅ぶ未来を見せられて、そこからアーシーが『自分が○○をしたらどうなる?』っ唱えると、しばらくしてその未来の結果が届くそうなのにゃ」
「結果が…………」
「…………届く?」
『なんじゃそりゃ』
『www』
『なんで分けて言ったの?』
俺とネイカの謎のコラボレーションにツッコミが入る。まあ、俺が唖然として「結果が」までしか言葉として出せなかったところに、ネイカがなぜか合わせてくれただけなのだが。
…………なぜ?
「その…………つまり『予言の巫女』ってのは帝国が滅ぶって未来しか見れないのか?それに届くってのは?」
「にゃにゃー、アーシーがこうしたらどうなる?って聞いた時は色々な未来が届くらしいにゃ。でも、そのままスキルを使った時は帝国が滅ぶ未来が来るそうにゃね。届くっていうのはメッセージみたいな感じで届くらしいにゃ」
「メッセージ…………」
『運営からか』
『どゆこと?』
『つまり何がしたいんだ?』
キャビーの言葉に、再び賑わうコメント欄。
あくまで俺の予想だが、届くというのはおそらく運営からだろう。運営が高度なAIにこの世界の未来を予想させ、その結果でも見せているのだろうか。世界全土の未来ともなれば、予想とはいえど算出するのに莫大な時間がかかるだろう。そう考えると、見える未来が限定的なことと、結果が届くのに時間がかかることも納得できる。
しかし、そんな多大な予算がかかりそうなことを、わざわざ一人のNPCのためだけにやるだろうか?現にアーシーは俺たちとしか関わりはないし、SFOの運営には全くと言っていいほど影響を与えていないはずだ。
とはいえ、これ以上の情報はキャビーからは聞きだせないだろう。そう判断した俺は、話を元に戻した。
「それで、未来が変わったっていうのは?」
「そうにゃね。あれは暗殺を終わらせた三日後くらいの事にゃ。アーシーが久しぶりに普通にスキルを…………『このままの未来』を見る方を使ったらしいのにゃ。そしたら、今までは帝国が滅ぶ未来を見せられていたのに、今度はレヴリカ王国と戦ってる未来を見せられたそうなのにゃ」
「なるほど…………元の未来はもう見れないのか?帝国が滅ぶ方は」
「そうらしいにゃ。帝国のもしもも、届かなくなったらしいのにゃ」
「…………」
黙り込んだ俺の後に、ネイカも質問をぶつける。
「レヴリカ王国って、ここからだいぶ北の方だよね?」
「そうにゃね。帝国の北の国にゃ」
「ふーん…………見れなくなったってことは、帝国は滅ばないってこと?」
「わからないってアーシーは言ってたにゃ」
『どゆこと?』
『滅ぶ未来が見えなくなったなら滅ばないんじゃね?』
『運営が何をしたいのかさっぱりわからん』
話しているキャビー自身も、やはり『予言の巫女』についてはよくわかっていないようだ。そしてこれは、きっとアーシー自身でもそうなのだろう。
俺のそんな予想を裏付けるように、キャビーが言葉を続ける。
「アーシーは二人が原因じゃないかって言ってたにゃ。今までは見える未来が変わったことなんて一度もなかったらしいし、何か変わる原因があるとしたらやっぱり『異業』だと思うそうにゃ」
「うーん、でも私たち何もしてないよ?それに、元々異業に手を貸してもらう予定だったんだよね?」
「そうなんにゃよ。アタシもそう思うんにゃけど…………やっぱりよくわからないにゃね」
『見せる未来を次のフェーズに移したとか?』
『運営的には帝国の内乱は終わりなのか?』
『てかこっちってマルナ王国だよな?北と南どっちからも攻撃されんのか?』
情報が錯綜する。
『予言の巫女』なんてスキルを作ったからには、何か運営の意図があるはずだ。急に見せる未来を変えたことにも何か意味が───いや、逆に変えざるを得なかったのか?今までは、プレイヤーが居なかったからある程度運営がテコ入れすることも可能だったはずだ。それができなくなったから、見せる未来を変えたなんて───いや、でもそれなら最初からこんなややこしいスキル作る必要がないか。
そんな風に考え込む俺と同様に、ネイカとキャビーも黙り込む。
そして少しの沈黙が流れた後に、キャビーを呼び戻すNPCの声が響いてきた。
「にゃにゃ!もう行かなきゃいけないにゃ」
「あー、ごめんねこんな時に」
「構わないにゃ。アタシは会いたいと思ってたし…………本当はアーシーに止められてたんにゃけど、運がよかったにゃ」
「そうだったの?もしかして、アーシーって私たちのこと…………」
「違うにゃ違うにゃ!『予言の巫女』が変わった原因探しにゃ!二人と接触せずにこのまま行って未来が変わらずに、いざ二人と接触してまた未来が変わったら二人が原因なんじゃないかってことでしばらく接触を避けてたのにゃ」
「え、じゃあ今会っちゃってるのは大丈夫なの?」
「わからないにゃ!でもアタシは二人といると楽しいから会いたかったにゃ」
「ホント⁉私も!」
『可愛いかよ』
『俺も』
『俺も』
本音なのか気を使ってくれたのか、最後はそんな和気あいあいとした空気の中キャビーと別れることとなった。
…………キャビーのことだし、気を使ったわけではなさそうだな。
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