第81話 配信 キャビーとの再会
「うーん……この感じは……」
「終わった後っぽいな」
『悲し』
『悲』
『間に合わなかったか』
俺たちは寄り道もせずに紛争が起こっているという場所まで駆けつけたのだが、着いた時には既に事態が収束した後のようだった。
今はなにやら大量の人が拘束されている状態で、無知な俺たちではどちらがキャビー側なのかわからない。
「キャビーはいたか?」
「うーん……あ!あそこ!」
『お』
『あれか』
『久々に見たな』
ネイカの声と共に流れ出す発見コメント。
しかし俺は未だに見つけることができておらず、一人だけキョロキョロと視線を動かしていた。
「お兄ちゃんまだ見つからないの?ほら、あの…………あっ」
「?」
『あ』
『あ』
『こっち見た』
『バレたぞ』
ネイカの「あ」の意味を、リスナーのコメントで理解する。
俺はそのコメントから視線を感じる方に顔を向けると、そこには確かにこちらを見るキャビーの姿があった。
「…………」
「…………」
悪ノリでここまでやってきた俺たちだが、実際にキャビーと会ってみるとどこか罪悪感のようなものが湧いてくる。どうしたらいいのかと無言でキャビーの方を眺めていると、キャビーは周りの人と少し喋ってからこちらの方へと歩いてきた。
「二人とも、久しぶりにゃね」
「うん」
「おう」
『www』
『コミュ障?』
『これはひどい』
なんだろうね、この微妙な空気は。
もちろん俺とネイカにちょっとした罪悪感があるのも間違いないが、キャビーからもどこかよそよそしい態度を感じることができた。
そんな空気の中、まずネイカが口を開く。
「なんか争いがあったみたいだけど、大丈夫?」
「あー、それは問題ないにゃ。…………いや、問題は…………」
「?」
『なんだ?』
『どうした』
一度言い切ってから、再び言い直そうとするキャビー。その様子は何か言いにくいことがあるといった感じで、俺とネイカも追及することが憚られた。
「そういえば、最近あんまり連絡もなかったけど…………特に進展はなし?」
「それは…………そうにゃね…………」
ネイカが話題を変えてみるも、歯切れの悪いキャビー。しかし、わざわざこちらへとやってきたということは、俺たちに言いたいことか何かがあるのではないだろうか。
俺はそんな予想からしばらく様子を窺っていると、やがて意を決した様子を見せたキャビーが、衝撃の告白をしてきた。
「アーシーが、予言が変わったって言っているのにゃ」
「えっ」
「予言が?」
『マジで?』
『変わっちゃダメだろ』
キャビーの言葉に、俺たちは驚きの声を上げた。
最後のコメントの通り、変わってしまう予言なんて意味が…………
「…………いや、でもアーシーは元々予言を変えるために動いてるんじゃなかったのか?」
ふと湧いてきたその疑問。どういったカラクリで未来を予言しているのかは知らないが、変わったこと自体に疑問を持つのはおかしいのではないだろうか。アーシーの予言とは、そういったものだったはずだ。
「そうにゃね。でも、そういうことじゃないのにゃ。『予言の巫女』は、簡単に言えばこのままの未来ともしもの未来を見る能力にゃ。それで───」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「にゃ?」
「お兄ちゃん?」
『お』
『兄?』
『どうした』
慌ててキャビーの話を止める。
キャビーは…………いや、NPCは皆『予言の巫女』というスキルに何の疑問も持っていないようだが、俺たちは違う。俺もネイカと話し合ったし、ネイカの配信を見た人たちが掲示板でも話し合っていたが、俺たちからすると未来を見るなんてありえない話なのだ。
たしかにNPCからすれば、スキルとは超常的な力であり、未来を見るということもできるのだろうと思っているのかもしれない。だが、俺たちからすればこれはゲームの世界であり、ゲームの世界と言えど、プレイヤーやAIであるNPCさえどういった行動をするかわからないのに、未来を見るなんて到底あり得ない。結局俺たちでも掲示板でも結論は出なかったが、『予言の巫女』には何かのカラクリがあるはずだ。
「その、『予言の巫女』について詳しく教えてくれないか?」
まずはそれを確かめないと話が進まないと思った俺は、キャビーにそう願ったのだった。
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