第80話 配信 火種
「んー…………なんか本当っぽいね。どうしよっか」
それは、眠り猫の性能検証中に起こった出来事だった。
俺もネイカも眠り猫によって眠らされるという茶番劇を繰り広げた後も、その効果範囲や眠りにかかった後再び眠りにかかるまでの時間南下を調べている最中に、ふとあるコメントが寄せられたのだ。
なんでもそのコメントによると、NPC同士がこの近くで争いを起こしているらしく、しかもその中にキャビーらしき人影も混ざっていたというのだ。最初は俺もネイカも聞き流したコメントだったのだが、他のリスナーがそのコメントに反応したり、それに同調するようなコメントも多々流れてくるようになったため、一度検証を中断してその真偽をネイカが審議することになったのだ。
「どうしようったって、キャビーたちとは一旦別行動中だろ?ほとぼりが少し冷めるまでは合わない方がいいって」
「まあそうだけどさー。…………気になるじゃん?」
『行け』
『行こう』
『行くべき』
普段はそれなりに分かれるはずのリスナーの意見も、ここではまさかの一致。
たしかにエンタメとしては行く方が面白いだろうが、キャビー達NPCにとってはそれだけでは済まされない問題かもしれないのだ。そう考えると……
「……まあ、たまたま通りがかったってことにすればいいか」
「そうそう!」
『それだ』
『実際ここにいるのはたまたまだしな』
『バレへんバレへん』
おい、誰だフラグ立てた奴は。
なんてのはともかく、今NPC同時で争っているとなるとかなりきな臭い話だ。今ではみんな飽きたのかイベントに注力しているのか、プレイヤーによるアールの街近辺への襲撃はほとんどなくなっている。元々プレイヤー対NPCというだけの簡単な構図ではなかったが、その目に見える部分のプレイヤー対NPCの構図が消えかけ、残ったのはアールの街を中心として帝国の南部を広く支配するドスレクマーク家がアーシーを除いて死亡したという事実。つまりは、実質的なドスレクマーク家の衰退だ。
キャビーの話では帝国というのは内紛がかなり激しい国のようなので、こんな状況は地位上昇を狙う貴族にとっては絶好の機会というやつだろう。もし俺の予想が正しければ、キャビーたちが戦っているのはそういった危険な火種というわけだ。
やはりそう考えると、今俺たちがキャビーたちと会ったら要らぬ波紋を生む可能性が高いが……なんて考えても、ネイカが行く気になってしまっているし俺にはどうしようもないか。
「とりあえず、争いが起こってるのはフォスカー像のとこからちょっと西に行ったとこみたいだね。まだバチバチらしいし、走れば間に合うかも!」
「わざわざ走るのか?」
「もちろん!ほら行くよ!」
『はよ』
『急げ』
…………現実ではあんなに走りたがらないのになあ。
なんてネイカの気に障りそうなことは、思っただけで口にはしないのだった。
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