第79話 配信 眠り猫の性能
さて、ここからは恒例の魔法獣の性能確認タイムだ。
リスナーに俺のステータス画面を共有して、みんなでわいわいとチェックを始める。
「能力値は低めだな。まあパッシブである程度伸ばせるからそこまで問題にはならないが」
「それよりスキルは?」
「スキルスキルっと…………お?」
「おー!眠り!しかもパッシブじゃん!」
『マジか』
『眠りって本当に寝るの?』
「眠りってのは、実際のとこは動けなくなるだけだな。特徴は効果時間が長いのと、直接ダメージを受けたら解除されるってとこだ」
「まあいつも通りのやつだね」
リスナーへの解説を挟みながら、その効果を確認していく。
まず初期アクティブスキルだが、これは『ひっかく』という何の捻りもないただのひっかき攻撃だ。そして初期パッシブスキルの方が、『誘眠』という眠り効果が搭載されたスキルとなっている。残りのスキルは獲得してみないとわからないので何とも言えないが、要求スキルポイントが比較的高く設定されている『ニャイトメア』というパッシブスキルは、名前と要求ポイントからしてもこの眠り猫の目玉スキルだろう。
「なになに……『誘眠』は、効果範囲内に三秒以上いた敵を眠り状態にする。か」
「ヒュプノブレスも三秒以上だっけ?眠りはだいたい三秒なのかな」
ヒュプノブレスというのは、どこぞのボスが使ってくる眠り攻撃スキルのことだ。これは文字通り催眠ガスを吐いてくるような攻撃で、予備動作などで対策が取れるのだが……
「こっちのはパッシブってのがいいな。隠密系のスキルもあるからトラップ運用もできそうだし、ビルドをタンクに寄せればシンプルにうざそうだし……育成しがいがありそうだ」
『イキイキしてて草』
『早口』
『兄育成ほんと好きだよな』
魔法獣の育成や用途の話になると、どうも熱が入ってしまう。リスナーにそのことを揶揄われるのも、もはや見慣れた光景だ。
だが、今回の俺の熱の入り方はいつもとは段違いだった。今までは、結局のところプレイヤーでよくねという域を突破することができないでいたのだ。いつも愛用しているメルに関しても、飛行能力があり火力が高いとはいえ結果的にはダメージを出すことしかできないので、DPSや立ち回りの比較対象としてプレイヤーが想定されてしまう。しかし今回の眠り猫は、プレイヤーでは何をしようと使うことができない『眠り』という異常ステータスを保有した魔法獣なのだ。これを可能性と言わずして何と言おうか。
「これはマジでポイントぶっ込むのもアリだぞ……というかめちゃくちゃ好みの性能だわ。異常デバフは神」
『オタクの血が』
『陰キャ』
『はやく姿を見せろ』
一人でぶつくさと呟く俺に対するリスナーのツッコミ。それを見て少し冷静になった俺は、咳払いを一つして眠り猫を召喚してみることにした。
「いでよ!眠り猫!」
「ニャー!」
『草』
『誰やねん』
『マジでそういう鳴き声なのかと思った』
俺の声に合わせて現れたのは、子猫ほどのサイズの三毛猫で、その頭からはありがちな「zzz」という文字が絶えず溢れ出ていた。
ちなみにニャーと言ったのは、この子ではなくネイカの方だ。おそらく明日にはネイカMADの素材になっているだろう。素材助かるなんてコメントも流れている。
しかし、これは…………
「可愛いな」
「可愛いね」
『わかる』
『可愛い』
『でもこいつ寝てね?』
数多の同意コメントの中に、不穏なコメントが。
いや、俺もそれはわかっていたのだが、気づかないフリをしていたというか、現実を直視したくなかったというか。
なんて現実逃避していても埒が明かないので、試しに少し声を掛けてみたり身体を揺すってみたりしたが、反応なし。まさかこいつ、ずっと寝てて動かないなんてことは……という不穏な空気が俺たちの間で流れ始めたところで、ようやく眠り猫が俺たちの呼びかけに応えるようにうめき声を上げた。
「お?おい、猫さん。猫さんや」
「ニャー」
返事した!
なんて興奮している場合ではない。というか、俺の魔法獣なんだから当たり前だ。とにかく俺の声に応じた眠り猫は、俺たちの足元まで近寄ってきて、小首を傾げた。
「よかった。ちゃんと動けるみたいだ」
「まあ、動けなきゃお話にならないからね」
「ああ。とりあえず動k…………」
「お兄ちゃん?急にどうし…………」
『?』
『草』
『???』
『これもしかして寝てる?』
『スヤスヤでワロタ』
いや、そのパッシブスキル俺たちにも有効なんかーい。
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