第78話 配信 眠り猫


「いた!いたよお兄ちゃん!」

「お!ようやくお出ましか」


『来たか』

『おっそ』

『こいつこんなレアだったか?』


 あれから数十分。目的を新モンスターの解析の方に切り替えた俺たちは、オキシマーダーなる謎の虫で解析を失敗してからというもの、エスキャットを求めてあちこちを歩かされていた。

 話では普通にその辺にいくらでもいるということだったのだが、いったい何が起こっているのやら。誰かがエスキャット狩りでもしていたのだろうか。いや、そんなうま味のあるようなモンスターだという話はどこにもないのだが。


「しかし、あれがエスキャットか。なんというか……」

「ちょっとキモいね」


『おい』

『きもかわ』

『兄とお似合いだな』


 おい最後の。どういう意味だ?

 なんて茶番を勝手に繰り広げられている件のエスキャット氏は、二メートル程の細長い、二足歩行をしている猫だ。目には謎のサングラスをかけており、その口はどこかニヤついている。……これは本当に猫なのか?


「ま、まあとにかく解析だな」

「そーだね。ぱっぱと済ませちゃお」


『シューン』

『シューン』

『しゅううううん』


 淡々としたネイカの反応と、コメントのシューンという連投。これは俺たちの間で一つのネタになっていることであり、解析失敗した時に鳴るシューンという気の抜けた音を、どうせ失敗するからという意味で先にコメントしてくるというノリだ。

 そして……


「いや、今回はいける気がするぞ?猫といえば……ほら、キャビーの加護がついてそうだし」


 などと適当にこじつけて俺がいけるとゴリ押すのが、いつもの流れというやつだった。


「ほい!はい!アイアーイ!」

「…………解析!」


『シューン』

『シューン』

『お?』

『おおおおお』


 ネイカの謎の掛け声と共に削られるエスキャットのHP。そしてそれに合わせて解析スキルを使う俺。シューンコメ。それは完全にいつもの流れだったが、どうやら今回はその結果だけが違うようだった。


「おー!成功じゃん!」

「マジか」


『久々だな』

『エスキャットだから猫の魔法獣あるぞ』

『いや、細長い魔法獣かもしれん』


 猫の方でお願いします。

 なんて判断できるのも魔法獣の名前のみだが、その結果は…………


「魔法獣・眠り猫…………猫だ!」

「猫!」


『きたああああ』

『取ろう』

『ポイントあったっけ?』


 猫だというだけでこんなにも盛り上がりを見せるとは、恐ろしきかな猫力。

 そして俺はコメントを見るまでもなく、余っているスキルポイントで眠り猫を解放したのだった。



 …………いや、猫だからとかじゃなくて、眠りってなんか強そうじゃん?ほら、相手を眠らせるスキルを持ってたらすごいし。プレイヤースキルにはないらしいからさ?眠り攻撃。そういうわけだから。

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