第83話 配信 『予言の巫女』議論
「みんな、結局『予言の巫女』ってどういうことだと思う?」
ネイカのそんな発言から始まった議論は、想像以上の盛り上がりを見せた。
最初は『予言の巫女』事態の話で盛り上がっていたが、話は徐々に帝国の内乱へと移っていく。
「結局内乱は収まったのかな?」
『まだだぞ』
『勢いは収まってきてる』
『各地でプレイヤー側が帝国に味方してるらしい』
コメントの信ぴょう性は不明だが、どうやら完全に収まってはいないが収まりつつあるというコメントが多かった。
帝国内各地でNPCを攻撃するプレイヤーは絶えず、またそれに便乗して反帝国勢力のNPCも増えてきているらしい。だがそれ以上に帝国を守ろうとするプレイヤーが多いようで、その顔としてネイカのことを持ち上げられているそうだ。
「えー…………まあ別にいいんだけどさ。キャビーたちに協力するのは確かだし」
『代表だしな』
『内乱が普通に収まるなら協力の話もなかったことになるのか?』
「うーん…………お兄ちゃんはどう思う?」
ネイカに話を振られた俺は、一度頭の中で話を整理してから、慎重に話を始めた。
「正直、俺はもう内乱の話はなくなったと思ってる。そもそも、帝国が潰れるメリットがプレイヤー側にないわけだしな」
「だよねー。NPCと敵対して遊びたいってプレイヤーもいるのはわかるけど、普通はそこまで争いを求めないもん」
『そうだな』
『むしろいきなりこんな過激な事件が起こるのが不思議』
「たしかにリリース直後に起こるような事件じゃなかったよな、最初の放火事件。それに、内乱が収まったなら収まったで『予言の巫女』は何だったんだって話になるし…………って、そんなこと言ってたら話が堂々巡りになっちゃうか」
『気持ちはわかるぞ』
『まあ運営が頑張ってんだろ』
俺も、そしてコメントを見る限り多くリスナーも、『予言の巫女』に関しては概ね最後のコメントと同じ意見だった。
『予言の巫女』はあくまで運営が何らかの方法を用いてアーシーにこの世界の未来予想を教えているというもので、アーシーの言うメッセージのようなものが届くというのも、運営からだと思えば素直に納得ができる。
そしてそう考えると、ここで一つの説が浮かび上がってくるのだ。
「やっぱ最初の放火事件だよな。アーシーに未来予想を教えてるのが運営だとすると、最初の放火犯も運営の手の者って考えられちゃうわけだが…………」
『十分あり得る』
『よくやるよな』
それが本当だとすると、マッチポンプというかなんというか。
俺がコメントを確認しながらその話を続けようとすると、ふとした様子でネイカが口を挟んだ。
「…………そもそもさ、未来を見せてるわけじゃないっていうのは?」
「?」
『?』
『?』
『なにが?』
「『予言の巫女』だよ。アーシーは未来が見えるって言ってたけどさ、実際のスキルの効果がそうだとは限らないでしょ?」
「あー、あるな…………」
『このゲームスキルの説明雑だしな』
『そもそもNPCはスキルの詳細を見れるのか?』
ネイカの説は俺たちの議論の根底を覆すようなものだったが、ないとは言い切れない説だった。…………いや、むしろ、その可能性を大いに感じてしまうくらいにはあり得る話だ。
「未来を見せてないとなると、何を見せてるんだろうな?」
「そこなんだよねー。見てるのは実際これから先の出来事らしいし、未来を見てることに変わりはないんだけど、運営が見せてる意図はそうじゃない…………みたいな…………」
「?…………運営の未来予想ってことか?それで、予想が変わったから違う未来を見せてきたってこと?」
「あ!それかいっそ、何か行動しないと運営の力でこういうことを起こすぞー!みたいな警告とか?」
「…………それをNPCのアーシーに見せて運営はどうしたいんだよ」
「あー、それもそっか」
『どゆこと』
『話がムズイ』
『でもそれするくらいなら、運営がアーシーを操作した方が早くね?』
『なるほどね完全に理解した』
『未来予想はあるな。キャビーが強いプレイヤーを探してたのも、ある程度この世界に影響及ぼせそうなプレイヤーにアーシーを紹介するためとか』
必死に考え込む俺たちと、それに付き添うリスナーと話を投げ出すリスナー。
そこまで真面目に配信を見ていないリスナーや、ネイカの配信のアクション性を見に来ているリスナーには申し訳ないが、俺たちはそんなリスナーたちを置いてきぼりにするくらい『予言の巫女』議論に夢中だった。
しかし、この『予言の巫女』というスキルには、それだけの重要な何かが秘められている気がするのだ。
とはいえ、俺たちに…………そしてアーシー本人にも、『予言の巫女』の性能に関してはあくまで予想を立てることしかできないのだが。
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