第73話 作戦決行


「おい、アイリ……って、問い詰めてる場合じゃないか!」


 いったいあれはどんなスキルなのか。取得条件や必要ポイントはどうなのか。といった疑問が頭に浮かんだが、今はそれを聞くほどの余裕はなかった。

 理由はもちろん、例の作戦だ。作戦の肝はメルとケイオスが同時に攻撃することであり、そうしなければ何の意味もないどころか逆効果まである。メルが一度吹き飛ばされて、そのまま再び攻撃に移るという算段で考えていた俺やケイオス、そしてブラウは、アイリのスキルによって「一度吹き飛ばされる」という過程を無視できてしまったメルに対して後れを取る形になってしまったのだ。

 とはいえ、俺にできることはもう何もない。今更メルに指示を出したところでもう止まれないし、この遠距離からじゃフルアーマーミノタウロスに対して影響を及ぼせる手段もないからだ。

 俺は祈るようにして二人のことを確認すると、メルを見て慌てたように何かのスキルを発動させているケイオスと、咄嗟にフルアーマーミノタウロスに近づこうとしたが未だ咆哮攻撃の余韻によって踏み込めずにいるブラウの姿が目に入った。


「ありゃ……何かマズっちゃった?」


 そして隣から聞こえてくるアイリのすっとぼけた声。

 たしかにあの神々しいライトグリーンの光と咆哮攻撃とぶつかり合って弾けるようなエフェクトは目を惹くものだったが、吹き飛ばし効果を無効化するなんて効果があるなら先に言っておいてほしかったものだ。


「マズったというか、あの二人が間に合えば問題はないんだが……」


 なんて俺が言っている間にも、メルは高速でフルアーマーミノタウロスに向かって突っこんでいく。

 そして間もなくメルがフルアーマーミノタウロスと衝突すると同時に、ブラウが雄たけびを上げてフルアーマーミノタウロスに向かって突っこみ、出が早いともっぱら噂の槍スキル『突槍』でフルアーマーミノタウロスの右足を貫き…………それから少ししてから俺たちの視界を青い光が包んだ。


「「「…………」」」


 場内に数秒の沈黙が訪れる。

 きっと今、誰もがこう思っているだろう。今のは何だ?と。

 そして少し冷静に考えれば、光のタイミングから考えて、メルもブラウも光の原因───スキルテイカーではないということがわかるはずだ。つまり、作戦は失敗。いや、大失敗といったところか。あんな茶番をしている時点で行動を共にしていた俺たち四人にスキルテイカーがいるのは明らかで、俺でもブラウでもないとなれば残るは二人。例の吹き飛ばしを無効にしたスキルを使ったアイリと、一見何もしていないケイオス。誰が怪しいかは言うまでもないだろう。


「みんな、気を抜かないで!」


 そんな風に沈黙する場内に、ネイカの一喝が響き渡った。

 それからすぐに皆の意識はボス攻略に戻ったが、攻略後にネイカに呼ばれてこのことを弄られたのは当然の結果というべきことだった。

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