第71話 アイリの作戦


「おい、もっと堂々としてないとすぐにバレちまうぞ」

「うっ……それはそうですけど……」


 ブラウの発言に不服そうに答えるケイオス。

 あれからすぐにボスの元へと辿り着いた俺たちは、一度四人で集まって様子を窺っていた。

 というのももちろん例のイベントスキルが原因で、ケイオスはもう予備動作を済ませてしまっているので一度でもボスに攻撃するとイベントスキルが発動してしまうのだ。

 とはいえ、今はこうしてボスの挙動を確認するという体で様子を見ているが、いつまでもこうしていれば怪しまれてしまうためそろそろ動かなければならない。

 しかし当のケイオス本人は相当目が泳いでいるといった様子で、ひきつった笑みを浮かべていた。


「ケイオスくんさー。別にそこまで気負わなくてもいいんだよ?別に皆本気でスキルテイカーのイベントをやりに来てるわけじゃなくてリアルネイカちゃんを拝みに来てるだけなんだし」

「おいおい」


 そんなケイオスに元も子もないことを言うアイリと、そんなアイリにツッコミを入れるブラウ。

 アイリもブラウも……そして俺も、イベントに対する考え方は比較的楽観だ。しかし、ケイオス本人がプレッシャーを感じているというのなら俺たちの言葉にほとんど意味はない。それよりもケイオスの負担が軽くなるような策でもあれば……


「……そうだ。アイリのスキルでどうにか誤魔化せないか?」

「私の?」

「俺はまだヒーラーとプレイしたことがないからわからないんだが、強力な回復技ってだいたいパーっと派手に光るような演出があるだろ?それで視界を奪う……みたいなさ。ほら、アイリ純粋なヒーラーって言ってたし、そういうスキルもあるんじゃないかなと」

「……ほうほう」


 俺の言葉に意味深に頷くアイリ。

 アイリはしばらく何かを考え込むと、困ったように口を開いた。


「うーん……まああるっちゃあるけど、視界を奪えるほどじゃないかなー。むしろ注目集めてバレちゃいそう」

「そうか…………いや、それだよ。むしろ注目を集めればいいんだ」

「えっ!?」


 俺の思い付きの言葉に、真っ先に反応したのはケイオスだった。

 すぐさまケイオスは俺に抗議の目を送ってきたが、俺はそれをすぐさま否定し返した。


「違う違う。ケイオスがじゃなくて……こいつが、だよ」


 そう言って上空を飛んでいたメルを腕に呼び寄せる。

 そんな俺に対する三人のポカンとした表情を前にしながら、俺はその作戦の説明を始めた。


「作戦はこうだ。まず俺がメルにボスの範囲攻撃に合わせて突っ込むように指示を出す。それでボスの範囲攻撃をわざとくらわせるから、そこでアイリがメルに派手なヒールを掛けるんだ」

「それで注目を集めるってこと?」


 アイリの言葉を、首を縦に振って肯定する。


「そうだ。参加者たちはメルのことをもちろん知ってるだろうし、そんなことが起これば当然メルに注目すると思う。そしてボスに突っ込むメルを見れば、それも当然ボスに攻撃するためにそうしたと思うだろ?」


 俺が得意げにそこまで言うと、俺の作戦を察したブラウがその先を口にした。


「なるほど。それでそのままその指示が止められなかったように見せかけてボスに攻撃し、それに合わせてケイオスも攻撃する……というわけか」

「そういうわけだ。これなら元々の作戦道理だし、ケイオスの方には注目がいかないって寸法だな」

「なるほど……」

「それに、ケイオスのダミーとしてブラウにも参加してもらう。ケイオスはその時だけ投擲スキルで遠距離から攻撃を入れて、それ以降は小刀だけで戦えばまず怪しまれない。仮に俺たち四人が行動しているということを怪しまれたとしても、その時最も怪しくなるのはメルの攻撃に合わせてボスの近くで戦ってもらうブラウの方ってわけだ」


 俺の言葉に少し表情を和らげるケイオス。

 これでケイオスのプレッシャーが軽減したならよかった……と安堵している俺に、アイリが先程よりもトーンを上げて更なる提案を加えてきた。


「あ!それなら、ケイオスくんはボスの近くに行こうとしてたけど、遅れちゃったって体で中距離くらいからスキルを使うっていうのはどう!?そしたらこの段階で私たちを怪しんでる人がいても、ケイオスくんはブラウくんのダミーでボスの近くに行きたかったけど間に合わなかった……そういう風に見えるでしょ?」

「おお……」

「ナイス作戦でしょ!?」

「ああ、存外頭が回るんだな」

「存外ってなに!?」


 そんなブラウの茶化しは置いておいて、たしかにその作戦はナイス作戦だ。

 俺たちは顔を見合わせて頷き合うと、その作戦を決行すべく各々行動を開始したのだった。

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