第70話 ネイカとアイリ


「こんなもんかな?それじゃあ第二段階の説明始めるね!」


 ネイカの号令から一分ほどして人の流れが収まってきた頃、ネイカはそう切り出した。

 ちなみにネイカの元にやってきたのは二十人弱ほどの人たちで、皆パッと見で強そうだと思えるほどの装備をしている。


「一応ワイルドガーデンのフルアーマーミノタウロスの情報だから、違うって可能性もあることは留意しておいてね」


 そんな前置きをしてから、ネイカは第二段階の説明が始めた。


「第二段階で一番気を付けなきゃいけないのは三連横振り攻撃で、これには最初の二発に長短時間の強力な物理防御デバフがあるらしいの。だからタンク以外が三連横振りのタゲにされた時は、後ろに弾かれるようにして相手の横振りを受けながら後退して、近くの人がカバーに入る。二発目も同じようにして受けて、三人目が最後の一撃を受けるって感じでやると安定するんだって!」


 SFOの情報なら莫大な量を仕込んでいるネイカだが、その説明はどこかから聞いた言葉をそのまま横流しするような口調だった。おそらくは、リスナーのコメントの中から正しいと判断した情報を口にしているのだろう。

 そしてそんなネイカの言葉を聞いても誰一人口を挟まなかった辺り、ネイカの判断は正しかったということになる。なぜならここにいるのは誰もが猛者だとわかる風貌をしており、そんな中のだれ一人もフルアーマーミノタウロスの情報を知らないとは思えないからだ。ネイカのコメントの真偽を判断する力も、さすがと言える。


「あと、ラスト一割くらいで第三段階に変わるから気を付けといて!いきなり範囲攻撃を飛ばしてくるらしいから!斧を両手で上にかざしたらその合図ね!それじゃあ……ゴー!」

「「「うおおおお!」」」


 ネイカの号令共に、集まっていた人たちがボスへと駆け出す。

 俺たち四人もその流れに乗じて一気にボスへと近づく中、その間ボスを抑えていたタンク組に対してネイカがねぎらいの言葉を掛けた。


「タンク組ありがとー!モブに盾持ちが出てるから、さっきまでボスと戦ってたタンク組と魔法組はそのままモブ狩りに移行して!」


 ネイカの言葉を受けたタンク組が、ボスの周りから四散していく。

 そんな当のネイカ本人はと言うと、もちろんのことボスへ向かって直し…………ん?いや、これは…………


「おにいちゃーん!」

「……」


 ボスに向かう俺の元へと、直進してきていた。


「いやー。お兄ちゃんがこっちに来てるなんて意外だね?」

「何が言いたい?」

「いやいやー。まさかお兄ちゃん、無理矢理ボスに攻撃しに来たんじゃ……なんてね」


 そういってニヤニヤとした表情を浮かべるネイカ。直接的ではなくとも、ネイカは明らかに俺がスキルテイカーなのではないかと疑っている口ぶりだ。


「……どうかな」


 俺はニヤけそうになる表情筋を必死に抑えながら、平静を装ってそう言った。ネイカがどこまで本心なのかは不明だが、これはケイオスの策が上手くいっているのかもしれない。

 そんな俺を見て、今度はネイカが小首を傾げる。


「むむ……その反応は……うーん……」


 一体何が引っかかるというのか。こんなにも俺は平静に───


「お兄ちゃんが嘘ついてる時の臭いがする!」


 なんじゃそら。


「臭いってなんだよ。臭いって」

「むー……何か隠してるでしょ!」

「……」


 恐るべし、妹の嗅覚とでも言うべきか。俺にはネイカがどこまで本心なのかすらさっぱりわからなかったんだが……

 などというやり取りをネイカとしている俺に、今度は前方から声が掛かってきた。


「おにいさーん!早く早くー!」

「……あれ?」


 この声の主は……アイリか。

 にしても、ネイカは何でまた首を傾げているんだ?


「お兄さ……あ、ネイカちゃん!」

「……あなたは?」

「アイリって言います!お兄さんと同じチームで、一緒に行動させてもらってまーす!」

「ふーん……見たところ近接戦闘職って感じじゃないけど?」

「うん!ヒーラーだよ!」

「ヒーラーが何でお兄ちゃんと……?」


 訝しげな視線をアイリへと送るネイカ。

 アイリはそんなネイカの視線を受けると、不敵な笑みを浮かべて俺の腕を掴んだ。


「ほらお兄さん!早く行こー!」

「お、おい……」

「それじゃあネイカちゃんまたね!早くしないと私たちでボス倒しちゃうからねー!」

「ちょっと!まだ話が!」


 俺の腕へと手を伸ばして掴み損ねたネイカを置き去りに、俺はアイリに引っ張られながら駈け出した。

 慌てて振り返ると、そこには俺へ不信の目を送るネイカと、クスクスというアイリの笑い声が残っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る