第69話 ケイオスの作戦


「私めっちゃ暇なんですけどー。リアルネイカちゃんでも拝んでこようかな?」


 奇妙な杖を持つだけ持ってそうボヤいたのは、俺の隣で突っ立っているアイリだ。

 というのもあれからスキルテイカーに関する展開は全くなく、ボス攻略に関しても相変わらずケイオスやブラウのような純粋なアタッカーがモブを蹴散らすのを眺めるくらいしかやることがなかったからだ。


「まあまあ落ち着けって。ほら、ボスのHPもそろそろ半分だし」


 俺の言葉に合わせて、アイリがボスの方を見る。

 ボスの方は、魔法攻撃組が攻撃してタンク組がヘイトを稼いで足止めをするという構図が開始からずっと続いており、もはや完全にパターンと化していた。

 そしてボスのHPが半分を切ると同時に、ネイカの声が響き渡った。


「ボスのHP半分切るよ!みんな警戒して!タンク組は一旦撤退!」

「「「おぉ!」」」


 ネイカもどこかから情報を入手していたのか、ただ半分を切ったら行動が変わるというセオリーを意識したのか。そんなネイカの声と共に、タンク組が軍隊のように一斉にボスの周りから退いた。


「腕と耐久に自信のある近接戦闘員集合!魔法攻撃組はモブの処理に移って!」


 さらに追加で飛んでくるネイカの指示。

 そんなネイカの指示対象に該当しなかった俺とアイリは、お互いに顔を見合わせた。


「お兄さん、私たちはどうしましすー?」

「どうったって、相変わらずモブの…………ん?」


 モブの処理を、と言おうとしてボスからモブの方へと目を逸らすと、そこには予想とは別の光景が広がっていた。

 先程まで定期的にポップしていたモブは、小さな牛の顔をして斧を持っただけの人型モンスターのプチタウロスだけだった。ところが今改めて周囲を見渡してみると、そこにいるのは斧をプチタウロスに加え、盾を持ったプチタウロスがちらほら見受けられたのだ。

 そして俺がそれに気づいたと同時に、ブラウとケイオスが戻ってきた。


「お兄さん、モブの方にも変化が来ましたよ」

「ああ、わかってる。しかし、実際どうなんだ?」

「結構厄介でした。迂闊に手を出すとこちらの攻撃を弾き返してきて、ノックバックを受けます」

「それでその間に斧持ちの方が…………ってことか」


 確かに厄介な話だ。厄介な話だが…………それ以前に俺たちはやらなければならないことがあるはずだ。


「それより、ネイカの招集に応えた方がいいんじゃないか?」

「ああ。今回のパターンに入り込めないとラストまでボスに近づけないことになるぞ」

「たしかに!それにそれに、もしかしたら残りの二チームも同じこと考えてるかもよ!」


 俺の意見にブラウとアイリも賛同すると、ケイオスはハッとした表情で声のトーンを上げた。


「それなら四人で行きましょう!僕とブラフさんは近接戦闘員ですし、アイリさんはヒーラーとして連れてきたってことで!」

「俺は?」

「そこですよ!お兄さんは条件には該当しないけど無理矢理参加して、ボスを殴るんです!そしてそれと同時の僕が攻撃を合わせれば…………」

「お兄さんの仕業にみせられるってことかー!」


 仕業て。

 などとアイリに脳内でツッコミを入れたが、たしかにケイオスの作戦はいいかもしれない。無理矢理参加すれば、それはイベントスキルを発動させるためだと思わせられるだろう。

 俺たちは四人で頷き合うと、ネイカの元へと駆け出すのだった。


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