SKILL FIGHT ONLINE

第68話 イベントスキル

「ケイオス！右を頼む！」

「はいっ！」

　ブラウの掛け声と共に、ブラウとケイオスがモブ───プチタウロス───に向かって突っ込んでいった。

　俺とアイリはそれを後ろから見守り、念のために警戒態勢を取っておく。

「ふっ！…………ありゃ」

「…………こんなもんか」

　様子見といった風に放ったブラウとケイオスの一撃はプチタウロスを倒すには十分すぎる一撃だったようで、ヒットアンドアウェイでバックステップを取った彼らの思いとは裏腹に、プチタウロスの体躯は撃破エフェクトと共に消え去っていった。

「周りを見ても難易度は緩そうな感じだねー」

「たしか参加メンバーの量でモブの数とボスの体力、平均レベルで相手の強さが決まってたと思うんだが…………」

「それならあれじゃないですか？ほら、あの後ろで何をしていいか迷ってる人たち」

　なるほど。平均レベルを下げている初心者の人たちはまだ後ろで迷っていて、今前線で戦いに来ている人は平均レベルを上回る人たちということか。

　そんなわけでモブ狩りは順調だったが、ボスの方はというと、魔法攻撃組が一斉攻撃を始めたようでそのHPをじわじわと減らし始めていた。

「そういえばブラウくん、ボスの行動はずっと同じなの？」

「くんって…………まあ、いいんだが。ボスの行動はたしか二段階変化だな。HP半分と、ラスト一割くらいのとこだ」

「ふむふむ…………ていうか、チームのこともそうだけど、なんでもうそんなことまで知ってるの？開始直後なのに」

「直後っつっても、俺らが最速チャレンジなわけじゃないだろ？ただ参加するだけってのも不安なもんで、最速攻略を謳ってる配信者のとネイカのとで二窓してたんだ」

　二窓…………要は、同時に二つの配信を見ていたということだ。

　プチタウロスをいなしながらそう答えたブラウは、ふと思い出したように言葉を続けた。

「ああ、そういやモブの方にも変化があったような……」

「ほんと！？それ大事じゃん！」

「いや、それもですけど、イベントスキルのことでちょっと……」

　ブラウの呟きに声を荒げるアイリとケイオス。

　そんな三人を見ながら、俺は────

「───！？」

「なんだ！？」

「うおおおお！」

　突然湧き上がる悲鳴や雄たけび。

　その原因はこの場にいた者なら誰もが目にしていたアレが、緑色の光を放ちだしたからだ。

「ねえ、今のって！」

「ああ、例のスキルだ！」

　例のスキル。それはもちろん、今回のギルドイベントの目玉であるイベントスキルというやつだ。

「ド派手な演出って光のこと！？それじゃあ今ボスの近くにいる人が……！」

　アイリの声に誘われるように、俺もボスのフルアーマーミノタウロスの方へと視線を向けた。

　しかしその周囲には誰もおらず、あるものと言えば魔法攻撃組の魔法のエフェクトくらいだ。

「どういうこと！？」

　そんなアイリの叫びに、ブラウが答えた。

「魔法攻撃組の中にグリーンチームのスキルテイカーがいるってことだ！」

「…………どういうこと！？」

　アイリが同じ言葉を繰り返す。ただそれも納得できるもので、ブラウの言葉は俺にも意味が分からないくらい説明不足だった。

　そしてその補足のために、ケイオスが口を開いた。

「イベントスキルの説明が長すぎてあの時は説明できなかったんですけど、イベントスキルっていうのはボスにマークを付けるスキルみたいなんです。イベントスキル自体にもモーションは数秒あるっぽいんですが目に見える効果は何もなくて、次にボスに攻撃したら大きな光を放つっていうものだそうです」

「なるほど……」

　少々複雑だが、要はスキルテイカーを見つけ出すにはそのモーションを見るか、光を放ったタイミングで攻撃をした人を見つけるかということだとう。つまり、今ボスに攻撃しているのは魔法攻撃組なので、そこにグリーンチームのスキルテイカーがいる。…………などと言われても、モブ処理をしていた俺たちにはそれ以上のことは何もわからないということだが。

「んーと、それってグリーンチームのスキルテイカーは魔法攻撃組からの証言を待つしかないってこと？」

「そうなるな」

「えー！私も見つけたかった！…………っていうか、その仕様知らなかったらどうにもならなくない？」

「むしろそこを狙ったのでしょう。あの一分じゃ全部は説明できていないでしょうし、戦闘中にそれが広まる前に、と」

「ずる！」

　確かにズルい話だ。

　とはいえそれは運営の説明不足…………いや、もしかするとそれすらも最初はそういう前提で楽しめという意図があるのかもしれないが。

「とにかく今はモブの方だ！」

「う、うん！わかった！」

　そんなブラウとアイリの声につられて、俺とケイオスも体勢を立て直す。

　そしてそのついでに、俺はケイオスに耳打ちをした。

「なあ、そのイベントスキルに時間制限はないのか？使ってから五分以内、みたいな」

「いえ、おそらくないと思います」

「それなら今の混乱に乗じてモーションだけでも済ませておいたらどうだ？」

「…………！」

　その俺の言葉を聞いたケイオスは、咄嗟にカンフーポーズのような不思議な仕草を取った。

「済ませておきました！」

「ああ、今のが……」

　なぜカンフーみたいなポーズ？という疑問は浮かんだが、今はそれどころじゃない。

　ケイオスにそう指示を出したのはもちろん言った通りの理由でもあるが、それは逆手にとれば同様に考えている人がいるという可能性もあるということだ。つまり、イベントスキルのモーションを知っておけば今それをしている人を見つけられるかもしれない。

　まあ、むしろ俺みたいに考えてケイオスのことを目撃した人がいるかもしれないが、それはそれということで…………

「…………考えすぎか」

　しかし、あくまで確認できたのは俺の目が届く範囲内だが、カンフーのようなポーズを取っている人も俺みたいにきょろきょろしている人もいなかったのだった。