第67話 フルアーマーミノタウロス


「なんだ……?ミノタウロスか?」

「武装激しすぎるだろ」


 ボスエリアへと転送された俺たちの間では、そんな言葉が飛び交っていた。そんな俺たちの目の前には、武器はもちろんのこと、頭から足の先までガッチリ防具を見に纏ったミノタウロスと思わしきモンスターが立ちはだかっている。

 そんな中、ずらりと横に並ぶ俺たちの右側の方からひときわ大きな声が上がった。


「こいつはフルアーマーミノタウロスだ!ワイルドガーデンにいるボスモンスで、とにかく物理方面の能力がヤバい!」


 その情報は見た目通りのものだったが、名前と居場所というたしかな情報が添えられていることで信ぴょう性が増し、何も知らない人たちをひとまず落ち着かせるには十分なものだった。

 そんな情報に周囲のざわめきが収まってきた頃、今度はネイカの声が響き渡ってくる。


「各チーム、まずはボス攻略最優先で!魔法攻撃が使える人はなるべく固まって、タンクはその近くで待機!他の人はモブの処理をお願い!」

「「「おぉ!」」」


 ネイカの指示と、それに呼応する参加者たち。

 イベントの開幕ということもあり熱狂的な盛り上がりを見せる中、俺たちは作戦通りあの四人で集合することに成功していた。そして、あの場では時間が足りなくてできなかった自己紹介が始まる。


「私はアイリ!純度100%のヒーラーだよ!」

「俺はブラウ。槍使いだ」

「えっと、一応ですが、僕はケイオスです。小刀系スキルと、投擲系スキルを鍛えてます」


 俺は少し特殊だが、一応今のところはほとんどメル頼りなので近接範囲アタッカーといって差し支えない。誰も魔法系スキルを習得していない上にタンクもいないとなると、違和感なくモブ処理班として動くことができそうだ。


「俺の自己紹介はいいよな。とりあえずは、この四人でモブ処理パーティーとして動こう」

「オッケー!でも、あのスキルはボスに使わないといけないんだよね?」

「そうですね。ボスモンスターにのみ有効って書いてあります」

「五十人もいるんだ、どうせそのうち混戦になるさ。その時までは落ち着いてモブを狩ろう」


 ブラウの言葉に四人で頷き合うと、俺たちはモブの処理という役割を遂行すべく駈け出した。

 ちなみに各プレイヤーはイベント専用のマントを強制装備させられており、その色によってどのチームに所属しているかがわかるようになっている。当然俺たちもそうなのだが、基本的には同じ色のマントのプレイヤー同士で固まっているようだ。


「メル!」

「おー!メルちゃん!」


 モブの処理をするということは、当然俺も戦闘に参加しなければならない。ということはメルを呼び出す必要があるわけで、いつものようにメルを呼び出したのだが、そんな俺にアイリが笑顔で駆け寄ってきた。


「んー!本物もやっぱりかわいい!」

「本物って……っていうか、どっちかと言えばかっこいいじゃないのか?」

「いやいや、かわいいですよ!ねぇ?」


 アイリが同意を求めるように、他の二人に振り向く。

 しかしブラウもケイオスもなんとも言えない顔で固まっており、俺はそんなアイリに対してニヤリと笑みを浮かべた。


「ほらな?二人も困ってるじゃないか」

「いやいや、二人はシャイなだけだから」


 初対面のお前に何がわかるんだよ。とは言わずもそんな視線を送ると、アイリはわざとらしくプイっと顔を背けて、メルに手を伸ばした。


「ふーんだ。わかってくれるのはメルちゃんだけで……」


 しかし、メルはあくまで俺の魔法獣だ。どういうAIで動いているのかは定かではないが、手を伸ばしてくるアイリに対して、メルはバサバサと上空に飛翔していった。

 そんな光景を見ていたブラウが、堪えきれずといった風に息を漏らす。


「……ふっ」

「あ!今笑ったでしょ!」

「いや、そんなことは…………ククッ」

「ほらー!」


 抗議するようにブラウの方へと駆け出すアイリと、アイリから逃げるようにモブの方へと駆け出していくブラウ。

 そんな初対面とは思えないほどの茶番を繰り広げながら、ついに俺たちの初イベントが始まりを告げたのだった。


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