第66話 ブルーチーム
ネイカに呼ばれた俺は、リスナーの人込みをかき分けるようにしてネイカの元へと駆けつけていった。
「お、来た来た。リスナーが兄はどこだって言うからさあ」
「どこだって、別に俺がいなくてもいいだろ?」
ネイカの配信だし。とまでは言葉にしなかったが、そんな含みを持たせる俺。
ネイカはそんな俺に対して、いたずらに微笑んだ。
「いやいやー、そんなこと言っちゃって」
「なんだよ」
「ふふふっ……いやいや、お兄ちゃんにはコメント見えてないんだなーって」
「?」
いったい何を言われているというのか。前後の脈絡を考えれば、俺に対する励ましとかだろうか。
「まあまあ、今度からはそうしようかな」
リスナーに対するネイカのそんな言葉を皮切りに、俺たちはイベントのボスステージへと転送されたのだった。
『チームとスキルテイカーを自動で振り分けます。その後一分間チームごとの待合室に転送し、ボス討伐が開始されます』
暗闇の空間で、そんなアナウンスの文字が浮かび上がってくる。そして数秒もしないうちに、俺たちはスポーツ選手が試合前に控えているような小部屋へと転送された。
「ネイカは…………いないか」
それは俺の呟きだったが、似たような声が周囲からちらほらと上がった。やはり参加しているリスナーとしてもネイカと一緒のチームになりたかったらしく、わかりやすく肩を落としている人もいる。
「……あ、でもお兄さんがいるじゃん」
そんな中、そんな声を上げたのはネイカよりも小柄な女の人だった。
そしてその声につられるように、俺へと視線が集まってくる。
「おー」
「お兄さんか……」
そんな微妙な反応を向けられた俺は、一体どんな対応をすればいいのか。そんなことを考えながら固まっていると、先程の女の人が大きな声を上げた。
「はいはーい!一分間しかないから、スキルテイカーの人は名乗り出てくれるかなー?」
その声に対して、そういえばと各々が自分のスキルを確認し始める。俺も自分のスキルを確認してみたが、そこにはいつも通りの見慣れているスキルしか並んでいなかった。
「…………あ、俺でした」
そんな中、一本の小刀を腰に差した男がおずおずと手を上げた。
「えーっと、イベントスキル:青ってのがありますね」
「青?」
「ブルーチームってことか」
チームの総勢13名のうち、ほとんどの人がスキル名に疑問を浮かべる中、分かっているような口ぶりの反応を示す人がいた。その結果、意味が分からなかった俺も含め、疑問を浮かべた人たちの視線をその人が集めることとなる。その人は少し照れるようなそぶりを見せると、それでもハキハキとした声で喋りだした。
「えーと、時間がないから手短に言うが、このイベントでは赤と青と緑と黒の四チームに分かれることになるんだ。って言ってもただスキル演出の色がそのチーム名に準ずる色になってるってだけで、何色だからってやることに差があるわけじゃない」
「なるほどねー。じゃあ、とにかく私たちはそこの…………」
「あ、ケイオスっていいます」
「そこのケイオス君がスキルを使ったことをバレないように頑張ればいいってことね」
「そうですね」
最初に声を上げた女の人と、イベント内容を詳しく理解している男が上手いこと話を進めてくれる。俺はただモブのように突っ立っていると、ふとケイオスが俺の元へと近づいてきた。
「あの、提案なんですが…………」
「なんだ?」
「えっと、せっかくお兄さんがいるので、お兄さんがスキルテイカーだって思わせられるように動けないかなって思ったんですけど…………」
そんなケイオスの提案にいち早く賛同したのは、例の女の人だった。
「あ!それ賛成!ケイオス君含めた何人かであからさまにお兄さんと一緒に行動すれば、注目は自然とお兄さんにいくし、ケイオス君もお兄さんと他のプレイヤーに紛れてなおさら目立たなくなりそう!」
『残り十秒でボスエリアへと転送します』
女の人の言葉に重なるように、そんなアナウンスが響き渡る。時間がもうないということで皆が示し合わせたように視線を寄こしたのは、俺だった。
「…………じゃあ、あなたとさっきの説明してくれた人。それに俺とケイオス君で行動しよう」
「はい!」
「わかりました!」
とにかく俺の記憶に残っていた、手際よく話を進めてくれた女の人とチームカラーの説明をしてくれた人を慌てて指名する。すると、間もなく再び視界がブラックアウトしたのだった。
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