第64話 配信 イベント開幕
「イベントだよー!」
『うおおおお』
『うおおおお』
『待ってました』
普段よりも三割増しの熱量で始まったネイカの配信。その理由は言うまでもなくSFOにとっての初の大型イベント『ギルドメンバー交流イベント スキルテイカーを探せ!』によるものであり、リスナーにとっては初めてのネイカと関わり合える可能性を秘めたイベントとなっていた。
「みんなイベント告知は見たかなー?見てないよって人も今画面に映してるところからもわかる通り、今からイベント内容の説明をするから安心してね!……でも、その前に一つ!」
『なに?』
『早くイベントやろう』
『ギルドどうするの』
「はい!今コメントにもあったけど、まずギルドの方に関してのお知らせをするよー!」
『お』
『俺を入れろ』
『絶対盛り上げます』
『いや、俺に任せろ』
ネイカのその宣言と共に、元から流れるのが早かったコメントがまた一段と加速した。
ネイカはそのコメントに目をやり満足そうに頷くと、なぜか俺に目配せを送ってきた。その意味が分からずにキョトンとすることしかできなかった俺の顔は、今はイベント告知画面を配信しているためリスナーに配信されることはなかったが、配信されていたらきっとコメントで弄られていたレベルのものだった。
「ちょっとお兄ちゃん、そんな顔してないでお兄ちゃんも喋ってよ!」
「え、俺が?」
『お兄ちゃん!?』
『どんな顔なんだ』
『お前の声を聞かせてくれ』
『兄もいたのか』
話に聞いてないネイカの無茶ぶりに、俺はキョドることしかできなかった。そもそもイベントの説明はネイカがやるって話だったし、俺がしゃべることはないはずなのだが……
なんて心の中でぼやいていると、そんな俺を見てネイカがニヤリと笑みを浮かべた。
「はーい!今からお兄ちゃんがギルドをどうするかとイベントの説明をしまーす!」
「……は?」
『やったあああああ』
『待ってた』
『兄パート待ってた』
「ちょっ……絶対嘘だろ!」
ネイカのさらなる無茶ぶりでなぜだか盛り上がりを見せるリスナーたち。ネイカの配信なわけだし俺が出しゃばっても意味がないと思うのだが、ネイカの意向ならば仕方がない。俺は大慌てでイベント内容を脳内で振り返ると、たどたどしくその口を開いた。
「えーっと、まずはギルドの方だけど、これはイベント内容の紹介が終わったらギルドを作って加入を自動承認にするから、参加したい人はSFOのゲーム内から配信を見ておいて……ください」
『ください』
『わかりました』
『はーい』
「んで、画面にも出てる通り今回のイベントはギルドメンバー交流イベントっていうものになって……ます」
『ます』
『ます』
『公式放送かな?』
「……その名前通りイベントはギルドメンバーの交流を主に置いたもので、今のところギルドに所属していても交流できるコンテンツがないから、まずはメンバー同士で仲を深めるためのイベントらしい……な」
『敬語になってない敬語辞めるな』
『なるほど』
『俺らには関係ないな』
俺はそう言いながら画面をスクロールして、リスナーにもわかりやすいように公式ページと俺の言葉でイベントの説明を始めた。
「まずイベントの基本はギルドメンバーでボスを倒すってもので、ボスを倒せば一定の報酬が貰えるんだと。ボスは三日ごとに種類が変わって、全部で三体。合計九日間のイベントになってる。ボスへの挑戦は一日一回だな」
『ボスか』
『パイレーツ兄弟以来だな』
『デスぺナは?』
「ああ、もちろんデスぺナも通常通りだ。死んだら目も当てられないから、安全第一の攻略が大事だな」
『はーい』
『戦犯したら晒されそう』
『怖くて参加できねえよお』
「ギルド単位でのボスってなると一人一人の役割は軽くなるから、気軽に参加していいんだよ!」
俺の傍らでコメントを眺めていたネイカが、リスナーを安心させるべく俺の説明に口を挟んだ。
「……だそうだから、まあ参加しないみんなも優しく見守ってほしい」
『それはそう』
『当然』
そんなコメントの雰囲気に安心してネイカと頷き合うと、俺はイベントの説明に戻った。
「それで、それだけだとただのボス攻略になるわけだが、ここで交流を強めるための追加ボーナスが用意されてるんだ」
『来た』
『実は未だによくわかってない』
「まあこっちの方は俺らも公式の文章を解読しただけだから違ってるところがあるかもしれないが……まずはギルドメンバーが四つのグループに自動で分けられるそうだ」
『四つか』
『チーム戦?』
「んー、まあチーム戦とは違うかな。四つのグループに分けたとはいえ攻略するボスはみんな一緒で、基本的には全員でボスを倒すのが目的になってるんだ。じゃあなんでグループに分けられたんだってなると思うが、これこそが追加ボーナスに関わってくる要素になる」
『既にわからん』
『とにかくボスを倒せってことは分かった』
俺はそんなリスナーたちの理解度に苦笑いを漏らしながらも、俺自身も何度も公式ページを読んでようやく理解できたものなので仕方がないことだと思うと同時に、一度でわかるようにきちんと説明しないといけないなという使命感で少しばかりの緊張感を覚えた。
「さっきも言った通りまず攻略メンバーが四つのグループに分けられるんだが、その中で更に各グループ一人ずつ特殊なスキルを授けられる奴が自動で選ばれるんだ」
『スキルか』
『スキルテイカーを探せってそういうことか』
「そう。そのスキルを授けられた奴がスキルテイカーになるわけで、みんなは自分が所属したグループ以外の三つのグループのスキルテイカーを探すっていうのが目的になるんだ。そしてそれと同時に、自分のグループのスキルテイカーは周りからわからないように隠さなきゃいけないわけだな」
『なるほど』
『そのスキルは使わなきゃいけないの?』
「もちろんそのスキルは使わなきゃいけない。そのスキルが使われなきゃボスを倒しても討伐失敗になるそうだ」
『えぐ』
『きっついな』
「それでそのスキルっていうのも使うとド派手な演出があって、おそらくだが見つけられない方がレアケースって感じになると思う」
『無理して隠すほどでもないってことか』
『まあ失敗しちゃ元も子もないしな』
「それに、あくまで目的はギルドメンバーで仲を深めることだから、追加ボーナスもそこまで豪華じゃない……どころかしょぼいくらいになってるっぽいな。そこの報酬差でギスギスしても仕方ないし、豪華すぎると全員でスキルテイカーを教え合って全員追加ボーナスをもらうのが普通になっちゃうからな」
『たしかに』
『あくまでみんなで盛り上げるお祭りって感じか』
『そういうの得意』
『任せろ』
「……とまあ、だいたいだがこんなもんだ。あとはやってみてって感じになると思うから……今からギルドの作成かな?」
「うん!ちなみにカンニング対策で、参加した人は配信が見れないようにブロックするよ!悪気はないからね!あとイベントが九日間あるから、イベント終わるまでは二回目以降の参加ができないようにブロックしたままでキックするから、それも許してね!悪気はないからね!」
『ブロック!?』
『されたい』
『絶対参加するわ』
『興奮してきた』
ネイカの補足に対するリスナーたちの意味不明なノリを前にネイカと苦笑いを浮かべ合うと、さっそくギルドの作成へと移ったのだった。
……ちなみにだが、俺は配信のラグを利用して気合で参加するしかない。
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