第61話 配信 パイレーツ兄弟撃破


「子分は!?」


 マジシャンの詠唱がキャンセルされたような演出に慌てて後方を振り返ると、そこには先程と変わらずにパイレーツたちと三人が大混戦を繰り広げていた。

 子分の数も目に見えるような変化はなく、むしろ前より減っているように見える。


「成功したのか……?」


 俺が半ば放心しながらそう呟く。すると、まるでそれが皮切りになるようにマジシャンが叫び声のようなものを上げ始めた。


「なに!?」

「どうなったのですか!?」


 マジシャンの突然の咆哮に、サキとおしゃかまからそんな焦りの声が発せられる。

 俺は唇を噛みしめると、自分の中にある迷いを無理矢理振り払った。


「大丈夫だ!子分は発生してない!」

「今のは!?」

「わからん!」


『www』

『わからん!!!』

『潔し』


 俺がやけくそ気味にそう叫ぶと、それを弄るようなコメントが流れだした。

 しかし、わからないものはわからないのでしょうがないだろう。あの三人がパイレーツにかかっている以上、わからなくても俺がどうにかするしかない。


「本当に大丈夫なんですか!?」

「大丈夫だ!とにかくそっちは一刻も早くパイレーツを処理してくれ!」


 発破をかけるように叫ぶ。

 改めて周囲を確認してみても、やはり子分はどこにも湧いていないようだった。つまり、俺の予想は当たっていたというわけだ。


(よし……ひとまず戦犯は避けれたか)


 内心でホッと息をついた俺は、改めて後方への意識を振り払ってマジシャンへと向き直った。するといつの間にか咆哮を終えていたマジシャンが、再び何かの詠唱を始めていたところだった。


(あれは……なんだ?)


 そのマジシャンの詠唱は、先程の蛍の光のようなものが浮かんでくる詠唱ではなかった。マジシャンが立っている床を中心に魔法陣のようなものが広がっており、そこからうっすらと光が漏れ出している。ひとまずあの三人の方に影響が及びそうな魔法ではないことに安堵するとともに、先程のように攻撃すればその魔法も不発に終わるのではないかという考えのもとに俺はメルを突撃させてみることにした。


「メル!」


 いつもの合図と共に、メルがマジシャンに向かってブレイブアタックをかます。

 すると、俺の思惑通りマジシャンがメルの攻撃を受けるとその床に広がっていた魔法陣は溶けていくようにその光を失っていった。


「……メル!」


 どこか呆気なさを感じながらも、よろめくマジシャンに向かって再びブレイブアタックを叩きこむ。するとこれまた呆気なく、メルはマジシャンを吹き飛ばしながらそのHPを大きく削った。


(……この程度なのか?)


 攻撃するだけで詠唱をせき止められているマジシャンを見て、俺はそんなことを思わずにはいられなかった。ボスだからとこちらが余計に身構えていただけなのだろうか。


「パイレーツ撃破!」


『よおおおし』

『マジシャンは?』


 そんな思いを抱いていると、後ろの方からそんな声が響き渡ってきた。

 どうやら三人は無事にパイレーツを撃破できたようで、周囲に群がっていた子分も一匹残さず処理されていた。


「マジシャンの方はどうですか?」

「それがな……」


 攻撃はメルに任せて、こちらに集まってきた三人に攻撃するだけで詠唱がキャンセルできるという話を説明した。

 その話を聞いた三人は、それぞれ少し驚いたような反応を見せながらも、納得のいく表情を浮かべていた。


「まあ序盤のボスだし、そんなものなのかな」

「そうですね。パイレーツと分断させて後衛から倒すといったセオリーを学ぶところなんでしょうか……少し警戒しすぎましたか」

「まーしょうがないよ。デスぺナしんどいし。慎重すぎるくらいがちょうどいいんじゃない?」


『まあそうか』

『そういやまだまだ序盤だったな』

『あの火球も打たせないのが正解だったわけか』


 メルにボコられているマジシャンを見ながら、もはや感想戦のようなものを始める三人とリスナーたち。

 そんな和気あいあいとした雰囲気の中、マジシャンはメルによってそのHPを削りきられ、俺たちはボス撃破の報酬と共にボス部屋の前へとワープさせられたのだった。


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