第59話 配信 終盤


「よし、行け!」


 ドロペットをメルの背に乗せた俺は、二匹に向かってそう叫んだ。

 俺が考えた作戦は至って簡単なもので、ドロペットの泥攻撃を空から仕掛けるというものだ。そこで基本的にAIが自動で動かしている魔法獣でそんな組み合わせ攻撃的なものが可能なのかという疑問が湧いてくるが、その答えは状況によってはそうだといった感じである。

 プレイヤーが魔法獣に対して命令できることは、攻撃のターゲットを指定することと、自動攻撃・移動のオンオフ、スキルの発動と指定場所への移動などだ。今回重要なのはこれらの機能で、まずドロペットをメルに乗せて移動しないように設定し、メルを低空飛行で旋回するように設定する。そしてドロペットの攻撃対象として子分一匹一匹を設定していけば、貧弱なドロペットが危険を冒すことなく子分に攻撃できるというわけだ。


(成功してくれよ……!)


 ドロペットの泥攻撃は単体に対する攻撃なので、誤ってネイカやサキに命中しない限りはフレンドリーファイアを引き起こすことはない。とはいえメルに乗って攻撃する以上慣性も働くし、子分も動き回っている。俺はなるべく事故が起こらないような少し後ろに群れている子分を選びながら、事の行く末を見守るのだった。




「……!」


『お』

『なに?』


 俺がドロペットによる泥攻撃を始めてから少し経った頃、その成果は目に見えてわかるものとなっていた。

 先程までネイカやサキに群れていた子分の半分ほどは上空にいるドロペットへ向けて塀を超えようとするゾンビのように手を伸ばしており、負担が減った二人も順調に状況を打開し始めていたのだ。

 突然負担が減ることとなった二人は黙ってその状況を確認すると、俺の方をちらりと見て頷いた。


『ナイス兄』

『蹴散らせ』


 その状況を理解し始めたリスナーからも、称賛のコメントが寄せられる。

 元はと言えば俺のせいなのでどこかマッチポンプのような申し訳なさを感じながらも、一体感を感じられるその光景に俺はどこか心温まるものを感じていた。


「……!パイレーツこっち来る!」


 その直後、気を抜くなと言わんばかりにおしゃかまの悲痛な叫びが響き渡った。

 状況が好転し、厄介だった子分の処理が回り始めたことに気を取られたネイカがパイレーツに対する攻撃の手を緩めてしまったのだ。そのミスはネイカに負担をかけすぎた俺たち全員のミスだと言えたが、ネイカは責任を感じているような表情で唇を噛みしめた。


「ごめん!」

「大丈夫です!もうごり押しましょう!」


『やばい』

『もうちょいだぞ!!!』

『叩けええええ』


 子分をある程度蹴散らしたサキは、もうHPゲージが二割も残っていない状況を確認すると、そう叫んでおしゃかまの方へと駆け寄っていった。

 ネイカもそれに便乗するようにして、子分の処理を切り上げておしゃかまへと駆け寄っていく。そしてそんな二人を追いかけて、子分たちもおしゃかまの方へと移動し始めた。


「俺はマジシャンを見てる!」


 そんな状況下で俺はそう叫ぶと、メルにドロペットが集めた子分たちを一掃させてから、先程から外野のように瞑想し続けるマジシャンの方へと意識を向けた。

 おしゃかまは既に刀に持ち替えており、パイレーツの方は敵味方が入り混じった大混戦になるだろう。そんな状況で問われるのはプレイヤースキルであり、大味な攻撃しかできない俺には何もできない戦場だ。役割分担、チームプレイ。俺は俺にできることを、というわけだ。


「わかりました!」

「よろしくー!」


 サキとおしゃかまが、そんな俺に対して返事を飛ばす。一方でネイカは、一秒でも早くパイレーツを撃破することがその返事だと言わんばかりに、パイレーツへと突っ込んでいくのだった。

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