第56話 配信 パイレーツ兄弟の変化
「ちょっ……やばいかも!」
『うわ』
『来ると思った』
『助けてええええ』
体力は問題ないしスタミナという概念もないが精神的に疲れ始めてきた頃に、そんなネイカの叫び声とリスナーのコメントが同時に流れてきた。
そんな声につられるように慌ててネイカの方を見た視線の先には、対峙するパイレーツとネイカ。そしてパイレーツを取り囲むように小さな人型のモンスターが十匹ほど湧いていた。
その一方でパイレーツは弱化したようで、スタン攻撃がなくなったようだ。前半戦と後半戦では、もはや違うボスと言っても過言ではないっだろう。
「子分ですか!」
「パイレーツだし、そうくるよね……!」
サキとおしゃかまが唇を噛むように叫ぶ。さすがのネイカでも一人ではどうしようもないその物量を前に、パイレーツに対する攻撃の手が完全に止まってしまっていた。
「お兄ちゃん!メルの攻撃合わせて欲しいかも!」
「わかったが……マジシャンの方はどうなってるんだ?」
ここ数秒間、子分に気を取られたネイカからの指示もなかったが、マジシャンから火球が飛んでくる気配もなかった。先程までに必死に走り回っていたペースを考慮すると、もう次の火球が飛んできてもおかしくない頃合いだ。そう考えると、パイレーツに合わせてマジシャンの方にも変化があったということだろうか。
そんな考えに答えを示すように、ネイカの声が響き渡る。
「……何かしてる!」
『何かしてるわ』
『パターン変わったな』
その何かというのが一番気になるところだが、初見の動きを伝わるように説明しろというのも酷なものだろう。パイレーツに加え子分も出現したことで、こちらからではマジシャンの動向が一向に視認できない。唯一わかっているのは、次に飛んでくる魔法が火球ではないということだけだ。
「一旦全員でパイレーツに集中します!いざという時は撤退も視野で!」
パターンの変化を前に戸惑う俺たちを導くように、サキがパイレーツの方に駈け出しながらそう叫んだ。
おしゃかまは自分まで突っ込むと混戦が悪化すると判断したのか、変わらず遠距離からの攻撃を続けている。となると俺も突っ込む理由はないので、メルの指示に専念することにした。
メルの攻撃の仕様だが、至って単純なもので、攻撃指示を出した時に一番近くにいる相手に攻撃をする。自動モードというのも搭載されているが、そちらは未だにノータッチだ。俺自身がやることもできれば活用するかもしれないが、今のところはメルへの指示に専念するしかやることがない。自由に動き回るメルと相手の動向を確認しながら適切なタイミングで指示を出すことだけが、今の俺にできることだ。
「ネイカさんはパイレーツを狙ってください!私とお兄さんで子分を削ります!かまちゃんは臨機応変に!」
「了解!」
「ラジャー!」
「わかった!」
『ボス戦らしくなってきた』
『うおおおおお』
『兄視点も欲しいな』
サキの指示に呼応する俺たち。この湧き上がる一体感は、ソロゲーをメインに遊んでいた俺にとってはとても新鮮で、心躍るものだった。
その一方で、ふと流れてきた一つのコメントに目が留まる。それは、『兄視点も欲しいな』というものだ。今まで深くは考えていなかったが、よくよく考えるとネイカの配信というのは当然ネイカ視点の配信ということになるわけで、例えば先程なら、俺たちが走り回っていたところはリスナーには見えておらず、ネイカ視点のパイレーツとの戦いがずっと映っていたわけだ。思い追い返してみれば、コメントもずっとネイカ視点のものであった。
となると、後方から状況を眺めつつ魔法獣に指示を出す俺のスタイルは、配信に向いているということになるのではないだろうか。……いや、そもそも、サキ&かまは二人でやっているという話だが、どういうカメラワークになっているのだろうか。
一度湧いてきてしまったその疑問で頭を埋め尽くされた俺は、どこか戦いに集中しきれないままパイレーツ兄弟の第二戦が始まることになったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます