第55話 配信 シャトルラン
「メル!」
ボス部屋に入って最初にしたことは、メルに攻撃の指示を出すことだった。
先程は油断をして先手を取られてしまったが、今度はそんな間抜けなことはしない。しっかりメルのブレイブアタックで先手を取った俺たちはパイレーツの衝撃波を誘発することに成功し、その直後にネイカが追撃を挟んだ。
パイレーツにスラッシュをお見舞いしたネイカは、ヒット&アウェイでパイレーツから距離をとりながらちらりとマジシャンの方を見る。パイレーツやエフェクトが邪魔をしてマジシャンが見づらい俺たちに変わって、ネイカにマジシャンの動向を確認してもらうという作戦だ。
「火球準備!」
『来るぞーーー』
『火球』
そんなマジシャンの動向を確認したネイカから声が飛んでくる。そして、それと同時にリスナーのコメントも流れてきた。
火球処理係の俺とサキとおしゃかまは横一列に並んでおり、真ん中に位置するおしゃかまだけは少し後ろに陣取りネイカの指示が来るまで弓での攻撃をしていた。
パイレーツのターゲットに関する仕様は、直近五秒以内に一番そのパイレーツに対してダメージを出した人に行くようで、遠距離攻撃のおしゃかまよりは近距離で攻撃しているネイカの方がダメージを出しているため、パイレーツがこちらに来る心配はない。逆にマジシャンの方は火球を横並びに三発出してくるのだが、マジシャンから一番遠い人をターゲットにし、そのプレイヤーに真ん中の火球が命中するようにして出してくる。これこそがおしゃかまが真ん中の少し後ろに陣取っている理由で、俺とサキは火球が飛んで来たらおしゃかまの位置まで後退し、火球を受けたらまた少し前に出るという作戦だ。
ネイカが『火球準備』と言ったのは、その仕様に対応するためだ。『火球準備』というのが火球の詠唱を始めたという合図で、『来た』というのが火球を撃ったという合図にしている。これはマジシャンが火球を撃つ段階でターゲットを決めるという仕様を持っているからで、要は『火球準備』の段階では俺とサキはまだ動かずに、『来た』の段階で俺とサキが後退するといわけだ。
「来た!!」
「「了解!」」
その作戦通り、火球準備の数秒後にネイカから来たの合図が飛んできた。
そんなネイカに対して俺とサキは返事を飛ばし、おしゃかまのラインまで後退しようする。
「ちょっ……」
「やばっ」
しかし、マジシャンの火球は俺たちが想定していたよりもかなり速く、おしゃかまのところに到達するまでに俺とサキが後退しきれるか微妙なラインだった。かといって横のライン中央に位置するマジシャンから同じく横のライン中央に位置するおしゃかまがサイドにいる俺とサキよりもマジシャンから遠くにいるためには、俺とサキよりもだいぶ後ろに位置しておく必要があるのだ。もし俺かサキがターゲットを取ってしまっては、火球が飛んで来る位置が大幅にずれて作戦が全て無駄になってしまう。
「うおおおお!」
一方で、火球を地面に着弾させてしまっても作戦の意味がなくなってしまう。なので俺は雄たけびを上げながら、おしゃかまのラインまで滑り込むように駆け込み、何とか身体で受け止めることに成功した。
そしてサキも同様に滑り込めたようで、俺たちはがむしゃらになんとか火球を三つとも身体で受け止めることに成功できたというわけだ。そのことに安堵したのもつかの間、俺の視界に指示コメントが流れ込んでくる。
『兄、メル動かせ』
『ブレイブアタック』
『お兄さん働け』
「……メル!」
パイレーツの方を確認する暇もなく、俺は元の位置にダッシュで戻りながら適当に攻撃の指示を出した。おそらくだが、無茶苦茶な指示でもメルの動きにネイカが合わせてくれるはずだ。そんなことよりも火球対策の位置取りの方が大事だったし、ネイカなら何とかしてくれるという信頼感からのプレイングでもあった。
『OK』
『とにかく動かしてくれ』
『それでいい』
「火球準備!」
そんな雑な指示を見たリスナーから、ネイカの代弁のようなコメントが寄せられる。そしてそれと同時に、二度目の準備の合図が飛んで来た。
「またか……!」
「キツいですね……」
俺とサキはちょうど元の位置に戻れたか戻れてないかといった具合で、火球が飛んでくるペースにギリギリ処理が間に合うかどうかといった感じだった。それならばまだ頑張りでどうにかできるが、もしも中盤戦以降に火球のペースが上がるなんてことがあったらおそらく火球の処理が不可能になる。そうなったらどうするのか───
「来た!!」
───なんてことを考えているうちに、来たの合図が飛んできた。
俺はHPポーションを飲みながら、Uターンするように再びおしゃかまのラインまで後退して火球を受け止める。そして再びメルの指示を飛ばしながら、元のポジションに戻る。
そんな地獄のシャトルランを三度繰り替えしたタイミングで、HPが半分ほど削れたパイレーツの動きに変化が訪れたのだった。
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