第54話 配信 作戦会議


「とりあえず抑えておくべきなのは、あの火球とパイレーツのスタンの仕様ですね」


 ボス部屋の前まで戻ってきた俺たちは、改めて作戦を練っていた。

 一度体験したことでボスへの理解度も増し、作戦会議にも拍車がかかる。特にネイカは、かなり意見の数も増えているようだった。


「となると、火球を受け止める三人と、アタッカー一人って感じかな?」

「うんうん。でもそれだと火力が乏しいから、お兄さんの魔法獣に目を付けたってわけ!」


 おしゃかまが笑顔で俺の方に振り向く。たしかに役割分担をしなければいけない状況なら、魔法獣というのはそれだけで頭数が増える便利なスキルだ。

 もちろんそもそもプレイヤーの数を増やせば解決もするが、レベリングというからには効率というものが付き纏ってきて、それは当然入ってくる経験値が同じなら人数が少ない方が効率は良くなる。それなら受け止める役に実質戦闘力0の俺を当て、その分の仕事をこなす魔法獣を前に置くのが一番効率いいと判断しての誘いだったようだ。


 ちなみにこの五日間でスキルポイントを荒稼ぎした俺たちは、スキルという面では大幅強化をできていた。

 俺はモンスター解析の方もかなりの数をこなせたが、今のところはメタルバードのメルを一本強化している。一応一通り気になった魔法獣は獲得したが、メルほどの魅力を感じる魔法獣がいなかったからだ。強いて言うならジェットラクーという狸型の高速移動が特徴の魔法獣やなんかは使い道がありそうだったが、少なくとも今回は出番なしだろう。それにメタルバードはかなりレアな魔法獣だったようで、それに相当する魔法獣に出会うにはかなり時間を要しそうだった。もちろんレアでなくとも強い魔法獣がいれば育てるが、はやりこの手のゲームでは尖った性能をしているものが強いのは定石であり、尖った性能をしているのは常にレアものであるのもまた定石であるのだ。


 そして魔法獣のカスタムについてだが、通常の十段階で強化できるスキルとは異なり、各魔法獣にパッシブスキル、アクティブスキルをそれぞれ十段階で強化できる。メルに関しては、今のところ攻撃のパッシブスキルとブレイブアタックのスキルレベルを均等に上げていっている。


 そして俺自身が扱えるスキルだが、これは未だにHPと防御力に関したパッシブスキルを少し獲得しているといった程度だ。というのも実際の配信と配信に関する調査なんかでかなり時間を取られており、未だにスキルの方の知識は手つかずなのだ。獲得した方がいいスキルなんかもあるかもしれないが、それは後々、それこそ配信上でやろうという話になっている。目安的には、初イベの二、三日ほど前までにレベリングを済ませて、そこからはスキルの確認といった感じの予定だ。そのためのスキルポイントも温存しているため、現状では純粋にレベリングに没頭していた人たちよりは大きく劣っているだろう。それでもネイカなんかはプレイスキルでその差を埋められるほどだが。



 そんな俺対するネイカは、片手剣スキルの強化はほどほどにして、パッシブスキルをメインに強化している。というのも片手剣はひとまずのスタイルであり、その内手放す予定だからだ。その時無駄になってしまう片手剣スキルにはあまりスキルポイントを割きたくないようで、最低限に抑えていた。


「じゃあ誰がアタッカーをやるかって話だね」

「はい。……といっても、ネイカさんにお任せするしかないですけど」


『すまん』

『どゆこと』

『うちのネイカが紙ですまん』


 混じっているサキ&かまのリスナーにはわからなかったようだが、ネイカは耐久面に関するパッシブスキルにはほとんどスキルポイントを割いていない。というのも俺たちは今まで狩場紹介をしてきていたわけで、狩場というのは狩りやすくて効率もいい場所というものなのだ。そんな場所では耐久よりもいかにモンスターを早く倒すかが問われる場所で、配信の見栄え的な意味でも、ネイカは攻撃ぶっぱといったスタイルでやってきていたのだ。

 もちろん今回のボス狩りに際して耐久面の強化もしたが、純粋にレベリングをしてきたサキやおしゃかまと比べるとどうしても劣ってしまうのは仕方ないだろう。


「ごめんねー。でもその分dpsは出すから」

「あ、私も遠距離からちまちま撃つよー」


 ネイカの言葉に、おしゃかまが弓を構えてアピールをする。

 事前の打ち合わせではサキも役割的にはアタッカーという話だったが、そこは仕方がないところだろう。


「それでは火球の処理は私とかまちゃんとお兄さんで。私たちも二人ではそこまでしか調査できなかったので、ここから先はぶっつけ本番になります」

「まあなんとかなるでしょ。多分」


『多分て』

『なんとかしろ』

『ボスって大抵途中から強くなるよな』

『おいやめろ』


 どうにも締まらないサキとおしゃかまの言葉にうなずいた俺たちは、不吉なコメントから目を逸らしながら、二度目のボス部屋へと突入していくのだった。

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