第53話 配信 パイレーツ兄弟
俺たちはボス部屋のある祠に着くや否や、わき目もふらずボス部屋へと突入していった。いつでもリタイアできるなら、とにかく一度挑んでみようの精神でだ。
そんな俺たちを待っていたのは、俺やネイカと同じく片手に直剣、もう片手に盾を持って海賊帽子をかぶったモンスター───パイレーツと、両手で杖を持ってとんがり帽子をかぶったモンスター───マジシャンだった。
型はどちらも人型で、大きさは五メートルほど。部屋の前にはパイレーツ兄弟と書いてあったが、魔法使いの方はどう見ても海賊という風貌ではなく、宮廷魔術師のような風貌だ。
「そういえばここのボス、最初にいろいろ語り掛けてくるんだよね」
『へー』
『我が聖域に踏み入るな系のな』
『我が秘宝を盗みに来たか!だろ』
『ネタバレ4』
ボス部屋に入ってすぐに、おしゃかまがふと思いだしたようにそう言った。
そしてこちらの配信にも向こうのリスナーが混じっているのか、サキ&かまの発言に捕捉するようなコメントがたまに流れてきて、それが一部のリスナーの反感を買っていたりもした。
しかし、向こうのファンなら向こうの配信を見ればいいのでは?と思うのだが、何かこちらの配信を見る理由でもあるのだろうか。
(……ん?待てよ、そう言えば……)
俺はその時、以前のとある出来事を思い出した。が、それと同時によそ見をするなと言わんばかりの勢いでパイレーツが俺へと目掛けて襲い掛かってくる。
「お兄ちゃん!」
「……ちょッ!?」
「うそっ!?」
『まずい』
『逃げろおおおお』
『え』
その動きに叫び声を上げたのは、俺とネイカとおしゃかまだ。
俺は何とかその突進自体は回避できたが、パイレーツの攻撃に付随して派生した衝撃波までは防ぎきることができなかった。
「クソッ!」
「その衝撃波はスタン攻撃です!」
「っていうかあの口上は!?」
『後ろ』
『魔法も来るぞ!』
『助けてええええ』
戦場はまさに阿鼻叫喚。回想にふけっていた俺だけでなく、ボスの口上が来ると思っていたおしゃかまも海賊モンスターのスタン攻撃を回避できなかったようだった。
SFOにおけるスタンとは、移動およびスキルの発動ができなくなるという異常ステータスだ。しかし、既に発動している継続系のスキルまでは解除されない。つまり、バフやエンチャント、俺の使っている魔法獣なんかはスタンを受けても消えたりしないということだ。
そんな中で肝心のメル自身はスタンを受けていなかったので、俺は試しに攻撃の指示を出すことにした。
「メル!」
『お』
『動くのか』
俺の指示を受けたメルが、俺のスタンの影響は受けずにパイレーツに向かってブレイブアタックを放つ。メルの身体とパイレーツの身体がぶつかり合うと、そこからさらに衝撃波が発生した。
「嘘だろ!?」
「パイレーツは物理干渉を受けると衝撃波を生むんです!」
サキが説明するように叫ぶ。その衝撃波に巻き込まれたのはメルだけだったが、たしかにこれは相当厄介な相手だ。
「ただ、それにはクールタイムがあります!だから今のうちに───」
「『スラッシュ』!」
『よし』
『いいねー』
『スタン組どうなった?』
サキが説明を終える前に、ぬるりとパイレーツに接近していたネイカがスラッシュをお見舞いした。
ネイカは元々リリース当初から上手いプレイをしていたが、本人はSFOの挙動に慣れないと難しそうな顔をしていた。それがここ数日でさらに動きに磨きがかかっており、その時の発言が謙遜ではなかったということが俺にもよくわかってきたといったところだ。
「ネイカさん流石です!……『アイアンブロー』!」
さらに追い打ちをかけるように、サキがアイアンブローを炸裂させる。
サキは両手に鋼のグローブを装備したいわゆるナックルスタイルで、それに対しておしゃかまは弓と刀と併用した近遠両用のスタイルだ。
「魔法来るよ!スタンは!?」
「終わってる!」
パイレーツのスタンは三秒ほど継続し、ネイカがパイレーツに攻撃を仕掛けたほどのタイミングで解除されていた。
マジシャンが飛ばしてきた魔法はシンプルな火球三発で、パイレーツのスタンを受けた俺とおしゃかまに向かってくるように飛んできている。
「二人とも回避!」
「ダメです!」
ネイカの指示を否定するように、サキが叫ぶ。
しかしそのサキの言葉の真意を探る時間もなかった俺は、半ば条件反射のように火球を回避するように後ろへ飛んだ。
「……!」
「なにこれ!?」
『うわ』
『なるほどw』
『火の海やん』
火の海というコメントはまさに今の状況を表していて、おしゃかまが身を挺して受け止めた一つを除いた二つの火球が地面に到達すると同時に、そこを中心とした広範囲の床が燃え盛るような火に包まれた。
「火球が来たら、なるべく身体で受け止めてください!そっちの方が対処が楽です!」
火球をくらったおしゃかまはそれなりのダメージを受けていたが、即座にHP回復ポーションを使うことでケアが成立していた。それに対して火の床は、近くにいるだけで徐々にダメージを受ける上に、シンプルに暑いのだ。
「こうなるとちょっと厄介なので、一旦出ましょう!」
「ぐぬぬ……りょーかい」
リタイアすることに少しばかり抵抗があるのか、ネイカは噛みしめるように撤退を飲んだ。
元から習うより慣れろで最初はリタイア前提だったのだが、それでもやはり一ゲーマーとして初見クリアというものに魅力を感じてしまうのは仕方がないだろう。俺もネイカの気持ちは理解できたが、無理してデスをしてしまっては元も子もないので、立ちはだかるパイレーツとマジシャンに背を向けてボス部屋を立ち去るのだった。
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