第52話 配信 渦巻


「あ、そうだ。テール海岸の……というか、多分SFOのボス全般に言えることだと思うんですけど、今回のボスはボス部屋が用意されててそこで戦う系のやつなんですよ」


 テール海岸のボスへと向かう道中。サキが思いだしたかのようにそんな話を始めた。


「あー、竜の試練みたいなね」


 ネイカが俺やリスナーたちにもわかりやすいように例える。

 するとサキもその例えに賛同を示して、さらに詳しい解説を始めた。


「ですです。でも、竜の試練とは色々と違うところがあるんですよ。例えば、どちらかと言えばこの手のゲームにありがちなパターンなんですけど、ボス部屋のみパーティー毎にワールドが用意されていて同時に何パーティーでも挑める方式だったりします」

「あー、あるあるだねー」


『へー』

『安心安全のね』

『NPC的にはどうなんだろう』


 そんな思い思いのコメントを横目に、サキが話を続ける。

 正確には配信窓が違うので見ているコメントも違うのだが、きっと大差はないだろう。NPCを気にしているのはこちらのコメント特有かもしれないが。


「あとは、事前準備なしでもリタイアできたりですね」

「へー。やっぱり竜の試練ってちょっと特別なんだね」


 事前準備というのは、かつてキャビーが言っていた竜爺が云々というやつのことだ。そちらの方はすでに王国サイドのプレイヤーが攻略を済ませており、最初の竜の試練をクリアするとステージ毎にリタイア機能が解放されるというだけのものだった。というのも、なんでも竜の試練は先程のサキの発言通りワールド全体の一部として存在しており、ボスのように同時に複数のパーティーが挑戦することができないらしい。そのため、ダメもとでチャレンジをして無理なら即リタイアというプレイヤーに居座られないようにそういった仕様になっているそうだ。あくまでプレイヤー間で言われていることだが。


 そういえば、キャビーと言えば今頃何をしているのだろうか。

 定期的に連絡はしているが、今はNPC同士で色々ゴタゴタしているらしい。有力貴族家の人間が一人を除いて暗殺をされたのだから当然と言えば当然だが、俺からするとゲームだからかそんなに不安に駆られることもなかった。

 キャビーからの連絡では既に暗殺の件は帝国全土に広まっており、プレイヤーの件そっちのけで大荒れらしい。幸いプレイヤー側ももう初イベントに備え始めているプレイヤーが多数で、アールの街に付き纏うプレイヤーも少なくなっている。そのためプレイヤーによる被害は抑えられているが、内紛に割く軍事力も考えるとなかなか厳しいのだとか。


 アーシーの予言ではそんな状況も無事に切り抜けられるらしいが、気が付いたら二人ともいなくなってました、では洒落にもならないため、ネイカがいつでも呼ぶようにと再三釘を打っている。

 ……まあ、俺はキャビーからそれがうっとおしいという愚痴を聞かされているが。




「……着きましたよ。ここがボス部屋です」


『すご』

『www』

『なにここw』

『ひっど』


 俺が脳内でそんな回想をしているうちに、テール海岸のボス部屋まで辿り着いていた。

 そこはテール海岸という名前の由来でもある、『波によって尻尾状に削られた海岸』だと主張されている場所だが、正直現実的にはあり得るのか?と思えるような地形となっていた。

 それはなると巻のあのぐるぐるのような形の海岸で、俺にはいったいどんな波が押し寄せてきたらこんな地形になるのか想像もできなかった。しかも、長い尻尾が渦を巻いた形ということでテール海岸らしいが、別にそれなら渦巻き海岸でいいのではないだろうか。

 ……などと色々と疑問は尽きないが、そんなことを気にしても仕方がないのでこれ以上考えるのはやめておこう。


「ボス部屋はあの渦巻の中心ですね」


 そう言って渦巻の中心に向けられたサキの指の先には、俺たちが挑んだ双竜の試練があった場所と同じような祠があった。


「ふーん……って、あの渦巻回っていかなきゃいけないの?」

「そうですね。まあ泳いでいくこともできますけど、変に凝ってて専用装備を付けないと水中は色々デバフがかかるんですよ」

「めんどくさいよねあれ。もう身動き取れないくらいのデバフつけられるし。ていうかそれなら最初から侵入不可にしとけよって!しかもモンスターまで居るとかさあ」


『鬼畜』

『初見殺し過ぎる』

『知らなかったら絶対泳いだ方が早いって思うわ』


 リスナーの言う通り、ボス部屋がある祠は直線距離で言えばかなり近いのに、無駄に道が何周も渦を巻いているため、見た目以上にかなり遠い。しかも別にモンスターがいるわけでもアイテムがあるわけでもないので、シンプルに歩かされるだけだ。

 この渦巻海岸を考えた人は馬鹿なのだろうか?たしかに一発ネタ的には渦巻海岸というのは面白いかもしれないが……いや、渦巻海岸じゃなくてテール海岸だった。


「まあ諦めてまた渦巻くしかないですね」

「しゃーない。渦巻くかー」

「はーい」


 そう言って渦巻……じゃなくてテール海岸を渦巻いていく三人。

 俺もその後を追って、海岸に沿って渦巻いていくのだった。

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