第49話 配信 狩場巡り
「はーい!それじゃあ再開するよー!」
『遅かったね』
『中止かと思った』
数十分の散歩を終えた後、俺たちは再びSFOの世界へとやってきていた。
ご飯、散歩、その後シャワーを浴びた時間を合わせても二時間に満たない休憩だったのだが、なぜかリスナーたちからはそんな心配の声が寄せられていた。
「それがね、私はすぐに戻ってくるつもりだったのに、お兄ちゃんが運動しろとか言ってきて……」
『助かる』
『そろそろ死ぬかと思ってた』
『兄、サンキューな』
「え!?私の味方は!?」
ネイカはリスナーが擁護してくれると思っていたのか、コメントを見て慌てふためくような反応をした。
それに対して、コメントがさらに加速していく。
『身体動かせ』
『ネイカの健康が心配で夜しか眠れない』
『お前この前「ネイカとかいう植物人間」ってスレ立ってたぞ。検証結果一日二十二時間動いてないって言われてた』
「みんな酷くない!?っていうかどうせみんなも運動なんてしてないでしょ!?」
『は?』
『毎日三十時間は走ってるわ』
『お前と一緒にすんな』
リスナーたちの反応を見ても、めげずに自分の意見を押し通すネイカ。
ネイカがリスナーたちとあーだこーだと言い合っている様子を眺めながら、俺はそんなキャラだからこそ配信では人気があるのかなあとと思ったりしていた。現実世界ではただの大きな子供だが。
そんな中、一つのコメントが流れてくる。
『てか運動って何したの?』
「何って……ねえ」
そのコメントに対する回答をぼやかして俺を見つめてくるネイカ。どうやら、流石に散歩は運動とは言い張りにくい程度のものだとは理解しているようだ。
仕方がないので、ここは俺が助け舟を出してやることにしよう。
「散歩だぞ」
「ちょっ!」
『散歩www』
『散歩で文句言う奴いるんだ』
『兄、もっと厳しくしてやってくれ』
おっと口が滑った。
ただ、これでネイカももっと危機感を持って運動に励んでくれれば……いや、駄目そうだ。リスナーたちの反応を受けても、全然納得したようなそぶりを見せていない。結局、俺と雨野さんで無理やりやらせるしかなさそうだ。
なんてしょうもないやり取りをしながら、俺たちは『サンケ平原』というところまでやってきた。
サンケ平原というのはリスナーから寄せられた効率のいい狩場の一つで、その中の一番バルバル狩りをした毒沼地から近くにあった狩場だった。
なんでもサンケ平原の中に出てくるマーズラットというモンスターがかなり経験値効率の良いモンスターらしく、集団で生息しているので範囲攻撃で一掃できるという寸法らしい。
範囲攻撃なんて持ってるのか?と思ったそこの諸君。実はなんと、メルのブレイブアタックは小規模ながらも範囲に効果があるのだ。本当に小規模なので人間大サイズのモンスター相手なら意識することはないが、小型モンスター相手なら十分に有用な範囲だ。
というわけで、俺たちはサンケ平原に足を踏み入れて早々にマーズラット狩りへと移行していた。どうやらリスナーのタレコミということもあり結構認知度も高いようで、他にもマーズラット狩りをしている人がちらほらといる。その人たちはほとんどが範囲魔法を使っており、いかにも魔法使い御用達の狩場という雰囲気がしていた。
「メル!」
そんな魔法使いたちを尻目に、メルにブレイブアタックをさせてみる。アックスコボルトですら一撃だったブレイブアタックは当然のようにマーズラットも一撃で屠れて、範囲的にはその小範囲に数匹を巻き込むのが関の山といった程度だった。
「まあ……」
『うーん』
『悪くはないな』
『ブレイブアタックならアセット鉱山がいいと思う』
『ムニエ山ムニエ山ムニエ山』
マーズラットを屠って手に入った経験値を見ても、なんとも言い難いものだった。
悪くはない。本当に、悪くはないのだ。ただ、旨いと手放しで言うこともできない。
「やっぱり魔法がないとダメかなあ……」
近くで一匹ずつ的確に倒していたネイカも、疲れ果てた様子でそう呟いた。
「ドロップ品はあんまりだね。数が多いからかレア物も落ちないし、普通の素材もドロップ率低めっぽい」
「たしか、マーズラットの前歯は爪武器の素材で毛皮は防具素材だったか」
「うん。とりあえず百個ずつ集まったら次行こう」
まるで誰かに言い聞かせるようにそんな会話を繰り広げる俺とネイカ。というのも、実はこのサンケ平原に来たのはある目的があったからだ。
SFOでは主な成長方法が二つあり、一つはレベルを上げること。もう一つはスキルレベルを上げることである。そこで俺たちは、まずは効率のいい狩場でレベル上げをするのではなく、様々な実績を解除してスキルレベルを上げるという方を選ぶことにしたのだ。
その理由は二つ。一つ目はリリース直後であるが故に、自分のプレイスタイルやビルドに合う狩場というものが未だに確立されていないからだ。先程のバルバル狩りのように無駄足を踏むことになる場合もあれば、旨いと思っていた狩場よりもっと旨い狩場があったというような話が後から出てくる場合もある。それならば、まずは様々な場所を見て回り実績を解除していく方が効率的なのではないかという理由だ。
そして二つ目は、一つ目に付随するような理由で、そのついでに攻略動画の作成をしようという話だ。つまりこの狩場巡りは、実績の解除を兼ねつつ、様々な狩場を網羅して攻略動画も作ろうという一石二鳥な企画というわけなのだった。
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