第47話 配信 バルバル狩り


「それで、どうやってバルバルを狩っていくかだが……」


 ダメージが低いのでメルを盾にしていくという手もあるのだが、召喚獣には回復アイテムが使えない。つまりいつかはダメージが加算されていって死んでしまうし、すると次の召喚までのクールタイムが暇になる。その点、さらに効率を落としてしまうというわけだ。


「やっぱり気合で躱すしかないかな?」

「いや、俺は絶対に無理だぞ?」


『がんばれ』

『初心者にあれはきついよ』


 少し不安そうにつぶやくネイカ。

 ネイカほどの力があればバルバルの攻撃を見極められるのかもしれないが、俺の脚だと一歩動くことすらできないだろう。だいたいネイカが不安そうにする相手に俺がかなうわけがない。


「でも、こういうのって慣れだからねー。特にアレは単調だし、リズムゲームみたいなものだと思うよ」

「そうか……」

「まあまずは私が試してみるよ。多分イケる!」


『いけ』

『速いだけでしょ』


 ネイカが意気込んで、リスナーが背中を押す。

 そんな空気の中、俺は心の中で「リズムゲームも初心者だけどな……」とボヤくのだった。


 その一方で、ネイカはゆっくりバルバルへと近づいていく。

 その距離おおよそ十メートルといったところで、ネイカの気配を感じ取ったバルバルがネイカの方を振り向こうとした。


「……!」


 バルバルの振り向く挙動を察したネイカが、その突進に備えて身構える。

 そしてバルバルをじっと見つめるネイカの視線と振り向いたバルバルの視線が交差した時、例によってバルバルがネイカに向かって爆速で駈け出した。

 対するネイカは、バルバルが動き出しても微動だにしなかった。そして、前方には両手で剣を突き出すように構えている。


「串刺しにでもするのか……?」


 まさかそんなので倒せるわけがないだろうと思った俺がそう呟くと同時に、ネイカが少しだけ片手剣を斜めにズラした。そして剣先とバルバルと衝突する瞬間に、左に飛びのく。


「……ッ!」

「ネイカ!」


『あぶな』

『こわ』

『うおおおおおお』


 何かの策を講じたネイカの努力も空しく、ネイカはバルバルに突き飛ばされた───というわけではなく、ネイカの作戦は半分成功半分失敗と言えた。

 ネイカはいわゆるアニメとかでよく見る、『銃弾の軌道を剣で逸らす』というやつをバルバル相手にやろうとしていたのだ。少し斜めに構えた剣の先にバルバルが衝突した瞬間に、剣ごと押し切られないように力を込めながら、自分は左側に移動した。その結果、バルバルの追尾を押しのけながら移動することには成功したのだが、その距離かなわず右腕だけノックバックの判定をくらうことになったというわけだ。


「……メルッ!」


 よろめいているネイカを一旦隅に置いて、俺は急停止してフリーズしているバルバルにメルのブレイブアタックをお見舞いさせた。すると、バルバルはアックスコボルトと同様に、ブレイブアタックをまともにくらうと一撃でその姿を塵に変えていった。


「……ネイカ、大丈夫か?」

「あー、うん。それよりカバーありがと」


『ナイスー』

『いい連携できてた』

『狩れるやん』


 無事にデスすることなくバルバルを狩ることができた俺たちだったが、リスナーたちとは違ってネイカの顔は決して晴れやかではなかった。

 そして、ため息交じりに今の感想を呟く


「まあ狩れないことはないけど……しんどい」


『w』

『しんどそう』

『兄もがんばれ』


 リスナーの言う通り、ネイカの心の叫びに俺も何か答えてやりたかったが……それは無理だ。いや、むしろ何もせず迷惑をかけないことこそが俺の戦いとさえいえた。

 そんなことを考えていた俺を他所に、ネイカが冷静にバルバル狩りの分析を始めた。


「経験値は相当美味しかったし、たしかにこれを連続でやれたらペース的にはいいかもしれないけど……現実的じゃなくない?」


 ネイカのその言葉に、俺も今一度バルバル狩りの流れを考えてみる。


「……そうだな。ネイカの負担もそうだし、二体以上に狙われたらマズいってのもな」

「そうそう。私たち最初の頃ははぐれモンスター探すのに時間かけてたし、またそれやるのはちょっと……」


『たしかにな』

『集中力の問題もある』

『即死のリスクにあってなくね』


 リスナーもネイカの言及に賛同するように、コメントを書き込んでくる。

 それを見たネイカは、遠い眼をして呟いた。


「……ナシで」

「……ナシか」


『ナシ!!!』

『解散』

『先生の次回作にご期待ください』


 こうして、キャビー提案のバルバル狩りは幕を閉じたのだった。

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