第二章 平穏な日常(~初イベント)

第46話 配信 バルバル


 結論から言うと、暗殺はあっけないほど簡単に成功した。

 その後俺たちはキャビーを含めて城を一旦追い出されていた。明らかに犯人と怪しまれる立ち位置であるキャビーが拘束されなかったのは、他の上流貴族がドスレクマーク家の暗殺を悲観していなかったのと、唯一の生き残りとなったアーシーが咎めなかったからだった。


 プレイヤーによるアールの街襲撃も一時的に収まっており、これは時間的な問題だと思えた。今は昼前であり、一部の熱狂的な荒らしプレイヤー以外はそんなことに時間を割くほど暇ではない。

 それよりも問題に思えたのは、わずか数時間で帝国を襲うプレイヤーがこんなにも集まっていたことだ。俺たちの知らないところでそういったコミュニティが出来上がっていたのかもしれない。だとすると、こちらの情報は筒抜けで相手の情報が掴めないというのは厄介なものだが、配信をやめるわけにもいかないので我慢するしかないだろう。





 と、あの後の話はこのくらいにしておいて、俺たちは今キャビーとは別れてアールの街を出てから北東へと歩いたところまでやってきていた。理由はもちろんレベリングである。

 ここは沼地……いや、毒沼地とでもいうべきだろうか。フィールドのあちこちにハマれば即死の毒沼があり、移動が少々面倒な場所だった。

 それに加え出現するモンスターも厄介だった。毒沼地にふさわしく毒を使うモンスター───ではなく、バルバルという強力なノックバックスキルを使ってくるウシ型モンスターがあちこちに蔓延っている。もし一瞬でも気を抜けば、すぐさまノックバックを受けて毒沼にぽちゃんだ。


 なぜそんな厄介なフィールドに来ているかというと、ちゃっかりネイカがキャビーに効率のいい狩場はないかと聞いたところ、ここを答えられたからだった。NPCにとってはリスクリターンがあっていないが、何度でも蘇る異業ならどうだと言われたのだ。

 その理由としては、バルバルが倒しやすさの割に経験値が美味しいという点だった。ゲーム的な観念から見れば、厄介なフィールドに出てくる上、その能力のほとんどをノックバック攻撃に割いているからだろう。


 つまり、周りと差をつけるにはうってつけのハイリスクハイリターン狩場……いや、慣れてしまえばローリスクハイリターンとまで言える狩場だった。……まあ、慣れる頃にはもう狩場としての適正レベルを超えてしまっていそうだが。


「しかも結構遠いし……もし死んだら二度とこないから」


『移動時間のロスはでかい』

『死ぬな』

『死んだらキャビーから金取ろう』


 毒沼地に着いて早々、ネイカがそんな不満を漏らす。

 たしかに、移動時間のロスは大きい。というか、キャビーのことだからそこまで考えてないのではないだろうか。移動時間のロスも含めたらそこまで効率よくないなんてこともありそうだ。


 とはいえ、一方的なイメージでそう決めつけるのは良くない。まずは一匹狩ってみることにしよう。


「メル!」


 毒沼地を少し歩いてバルバルを発見した俺は、メタルバードの召喚獣・メルを呼び出して、バルバルへと突進させた。

 ひとまずメルに突っ込ませたのは、バルバルの行動パターンを調べるためというのと、メルには飛行能力があるから万が一相手の攻撃をくらっても毒沼地には落ちずに戦えるのではないかというところからだ。


「さて、これでどうでてくるか……」


『パッと見猪突猛進してきそうだけど』

『どう見ても頭悪いモンスター』


 リスナーたちから酷い言われようのバルバルをネイカと共にじっと観察していると、やがてメルを視界にとらえたバルバルは、たいしたモーションもなしにいきなりメルに向かって爆速で突っ込んでいった。


「はやっ」

「マジか」


『!?』

『エグww』

『そりゃNPCは来ませんわ』


 例えるならば、ホラゲに出てくる怪人とでもいうべきだろうか。プレイヤーを見つけた瞬間に、ものすごい勢いで追ってくる。バルバルの場合は直線に突っ込んでくるだけのようだったが、それでも十分にホラーと言えた。


「でも、躱せば勝手に毒沼に落ちるんじゃ……」


 なんて呟いたネイカの発言も空しく、メルを吹き飛ばしたバルバルは毒沼の直前で何事もなかったかのように急停止をした。


「物理法則は!?」


『www』

『挙動キモ過ぎw』

『ギャグだろ』

『慣性「」』


 思わず吹き出してしまいそうになるバルバルの急停止に、リスナーたちが盛り上がる。

 俺もそれを目の前にすると苦笑することしかできず、まともなツッコミを入れたネイカの配信力に思わず賞賛の意を感じてしまうほどだった。


「……あー、でもダメージはたいしたことないな」


 数秒笑いの余韻を抑え込むような間があった後、思い出したようにメルのHPを確認した俺は、そう報告をした。

 実際メルのHPはほとんど減っておらず、まさにあの突進はノックバック能力に振り切ったもののようだった。


「あの勢いでダメージはたいしたことないとか……」

「まあ、スキルに常識は通用しないってことだろ。……てか、まさかあの急停止もスキルか?」

「あー、ありそう」


『ある』

『それだ』

『取れ』

『相手に笑いを誘うスキルか……』


 ふとした思い付きの発言だったが、周りの感触はかなり良好だった。

 俺たちはバルバルの謎挙動から、何か変なことがあったらだいたいスキルなんじゃ……と謎の教訓を得たのだった。スキルという確証はないが。

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