第45話 配信 『シナリオ』
「結局、異業というのは何者ですの?」
それから少し時間が経ち、キャビーが暗殺に向かって離脱した。それまで計画のチェックなどでバタバタしていた空気も緩和されようやく一息というところで、アーシーが藪から棒にそんなことを聞いてきた。
「随分漠然とした質問だけど……」
「ああ、ごめんなさいまし。私のスキルでは、異業の出現は予言できても異業がどういうものかまではわかりませんから。五百年前のものと同じなんですの?」
「五百年前……いや、私たちはむしろそれを全く知らないんだけど……」
俺たちが顔を見合わせて困り顔を浮かべると、アーシーは五百年前の事件の説明を始めてくれた。
「そうですわね……かつて世界全土に渡って栄えていた文明が、あなたたちと同じ特徴の人たちに破壊されたという歴史があるのですわ。それが、五百年前の『異業襲来』と呼ばれているのですわ」
「世界全土にって……すごくない?」
「ええ。その時代では、どんな種族も平穏に手を取り合って生きていたとか言われていますの。……そして、それが神の怒りを買ったとも」
『ええやん』
『神か』
『神って運営?』
(神って運営?か。たしかにそうだな……)
そのコメントは、かなり腑に落ちるものだった。
アーシーの言っている状況は、たしかにこの世界の住人からしてみれば理想郷かもしれないが、ゲームとしてはどうだろうか。世界のどこへ行っても文明が栄えていて、争いも少ない。少なくともMMORPGにしては刺激が少なすぎるだろう。
そんな世界をテコ入れしに来た運営が五百年前の異業だとするならば、プレイヤーと同じ特徴なのも、わざわざ世界を破壊して回ったのも、筋が通る。
そんな予想を確認するために、俺は一つの質問をした。
「その五百年前の異業っていうのは、俺たちみたいにはじめは弱かったのか?」
運営のテコ入れだとするなら、わざわざ位置からキャラクターを育ててはいないだろう。予想が全てあっているならば、それこそチート級のステータスでやってきているはずだ。
そんな意図から出てきた質問だったが、アーシーはその答えを持ち合わせてはいなかった。
「それは……わかりませんわ」
「わからない?」
「ええ。五百年前の……いえ、五百年以上前の歴史はほとんど残っていませんの」
『へー』
『ロストテクノロジーとか出てきそう』
『古代文明フラグ』
アーシーの発言にリスナーたちが盛り上がりを見せる。
たしかに、この流れは確実にそう言うものが出てきそうな話ではあった。
「我がドスレクマーク家に伝わっているのは、かつて世界全土に栄えた文明『ラピス』が異業によって破壊されたということと、その後ラピスの生き残りと世界各地に点在していたラピスに属していなかった様々な種族の集落とで協力して、今の帝国や他の国々が栄えたということですわ」
「つまり、五百年前の異業の目的はラピスの破壊だったってこと?ラピス以外は狙われてないってことだよね?」
「そうですわね。……そして、我がドスレクマーク家が帝国の有力家として君臨しているのも、他の民を見下しているのも、私たちがこの帝国の礎となる協力関係を作り出したラピスの末裔だからですわ」
『ふーん』
『なんかキャビーちゃんの話と違くない?』
『ラピス』
アーシーの話とキャビーの話は、別に相違しているわけではない。ただ、アーシーの方が多くを知っているというだけだろう。
そして、五百年前の異業の目的がラピスの破壊だったということは、五百年前の異業が運営という説が濃厚になってくる。
「……まあ、多分だけど、五百年前の異業と俺たちは別物だよ」
そんな予想から俺がそう結論付けると、アーシーはほっとした表情をした。
「でしたら、この世界を壊しに来たというわけではないのですわね?」
「もちろん。……ていうか、そんな風に思われてたのか?」
だとするなら、なぜNPCがプレイヤーに対して親切なのかが理解できない。
そんな疑問を頭に思い浮かべていると、アーシーがその理由を説明してくれた。
「そう思っているのは、この歴史が伝わっているラピスの末裔だけだと思いますわ」
「……末裔以外には異業のことは秘匿されてるのか?」
「秘匿……というよりは、言い出せないんですのよ」
「というと?」
「世間一般にはあまり認知されていないのですけど、異業のことを『世界を終焉へと導く使徒』として崇拝するカルト集団がいるのですわ。私たちがこの歴史を広めると、そのカルト集団を増長させてしまうだけですもの」
「なるほど……」
『カルトw』
『山奥とかに潜んでそう』
『こわい』
世の中の柵というものは、どうやらゲームの世界でも複雑らしい。
しかし、俺たちには世界を終焉へと導くつもりなどさらさらないのだから関わりたくないものだ。……いや、中にはそれも是とするプレイヤーもいるかもしれない。その時対抗できるのも、またプレイヤーだということだろうか。
俺はアーシーの話を聞きながら、SFOはストーリーもなく自由に遊べる世界に見えるだけで、実は世界を壊す者と守る者にわかれて戦うということがシナリオとして用意されているのではないだろうかとか、そんな深読みをしていた。
そしてそれは、俺たちの配信を見ていた他のプレイヤーにも、そしてそこから多くのプレイヤーへと、じわりじわりと広まっていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます