第43話 配信 アーシーの作戦
「アーシー！大丈夫だったかにゃ！？」
アーシーの部屋までやってくると、キャビーはいの一番にアーシーへと駆け寄った。
アーシーはこの時のためにかなりわがままを突き通しているようで、第一にわざと最初の放火騒ぎの際に被害を受けに行き、今は『名の知れた強者』の護衛しか受け付けないと騒ぎ立てているそうだ。もちろん、その『名の知れた強者』とはキャビーを引き寄せるための口実である。
「私は大丈夫ですわ。所詮は消える者───異業の攻撃ですもの。私もレベル上げに割ける時間は少ないですけど、まだまだ私の方が上ですわよ」
「ならよかったにゃ。それより……」
キャビーはアーシーのある部分を見つめながら、きらりと瞳を輝かせた。
「なんにゃこのでっかいのはー！」
そう叫びながら、キャビーがアーシーの胸部に膨らむ巨大なたわわを揉みしだく。
アーシーは短い悲鳴を上げると、キャビーを振り払うように身をよじらせた。
「ちょっ……やめてくださいまし！」
『助かる』
『！？』
『きたああああああ』
突然のじゃれつきに興奮する一同と、唖然とする俺とネイカ。
そんな俺たちを置いてけぼりに、キャビーが今度はガクッとテンションを落とした。
「昔はこんなじゃなかったのに……どこで差がついたのにゃ……」
キャビーが自分の貧相なそれと見比べて、頭を項垂らせる。
その隙にアーシーが息を整えて、こちらへと振り向いた。
「もう……ごめんなさいまし。この子はたまに会うといつもこれで……」
「い、いえ……」
「こっちは何かと理由をこじつけて会っているのだから、いつも静かにとは言っているのですけど……この子は何分馬鹿でして」
「馬鹿とは何にゃ！」
「事実でしょう」
『仲良すぎ』
『キャビーはアホの子』
そして再びアーシーに絡みに行くキャビー。
アーシーも再びそれを引きはがすと、緩み切った空気を振り払うように咳払いをした。
「……そろそろ本題に入りますわよ」
その言葉にはすでに疲れ切ったような色が浮かんでおり、そこからすでにアーシーの気苦労をなんとなくだが感じ取ることができたのだった。
「そちらのお二人……ネイカさんとお兄さんでしたわよね。キャビーから話は聞いておりますわ。私はアーシー・ドスレクマークですの。以後お見知りおきを」
「ネイカです。こっちはお兄ちゃん。よろしくね」
「……どうも」
『こっちはお兄ちゃん』
『お兄ちゃん』
『兄ももっと何か言え』
リスナーたちからバッシングを受ける俺。
いや、だって……どうもくらいしか言うこと残ってないじゃん。
「さて、ここからはお二人には少々関係のない話になるかもしれませんけど、今日キャビーを呼んだのはドスレクマーク家を暗殺するためですわ」
「えっ」
『マジか』
『もうやるの？』
突然の展開に騒然とするリスナーたち。
それはこちらも同じことで、話には聞いていたがまさかさっきの今でやるという話になるとは思っていなかったのだ。
アーシーはそんな俺たちの様子を確認すると、その説明をするように話を始めた。
「昨夜の放火騒ぎで、今城内はピリピリとしていますわ。私たちドスレクマーク家はどこへ行くにも護衛を付け、なるべく離れないように行動しております。……これは、異業を警戒してというよりは騒ぎに便乗してくる民を警戒してのことですが」
リリース二日目でプレイヤーが束になったところで、到底国に対抗できるものではないだろう。その点、アーシーの言うことは素直に理解ができた。
「本来なら何度かキャビーを城内に招集することで他の方の警戒心を薄れさせてからのつもりでしたが、偶然護衛兵団に招待されたようなので、このままやっちゃおうかと思いますわ」
『割と適当で草』
『殺っちゃおうかと思いますわ』
『人殺しのノリじゃない』
アーシーの物騒な物言いにリスナーたちが盛り上がる。
そして決行理由の補足をするように、さらにアーシーが話を続けた。
「というのも、下手に警戒が進んでしまうよりは今の方が簡単ですもの。それに、小競り合いが続くのなら私とキャビーが小芝居を打つのはいつでも問題ないですわ」
アーシーはそこまで話をすると、いったん間を置いて、瞳をぎらつかせるように微笑んだ。
「そして今夜は───豊祭日ですから」
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