第42話 配信 再結


「それからはまあ、メッセージでやり取りしてって感じにゃね」

「なるほどねー。だから異業の軍団じゃないのかって確認してきたわけだ」


『NPCに過去なんてあるんやな』

『話が長い』

『殺人鬼やんけ』

『やっぱりモンスターとかNPC専用のスキルはあるんだな』


 キャビーの話を聞いたリスナーたちのコメントは、様々な意見に分かれていた。

 ほとんどは他人事のような面白がるコメントだったが、想像以上の話に驚く人や、嫌悪感を示す人もいた。

 俺とネイカはどちらかというと他人事に感じている側のようで、あくまでゲーム内のお話と捉えていた。


「そうにゃね。二人に声をかけたのもアーシーの予言で必要になったからにゃ。今更だけど、ごめんにゃ」

「それは別にいいんだけど……あのさ、今までの帝国を救いたいとかそういう話は嘘だったってこと?」


 ネイカが何かを心配するようにそう尋ねると、キャビーは悪戯な笑みを浮かべた。


「にはは。嘘にゃ」


『www』

『嘘かよ』

『NPCも噓とかつくんだな』


 しかし、キャビーはケロッとそう言ってから少し間を置くと、今度は照れたように後頭部を掻き始めた。


「……まあ、今ではそれなりに思い入れもあるけどにゃ。帝国の表にも出てみて、アーシーの言うことは間違いないって思ったにゃ。アタシみたいなのがもう生まれてこないようにっていう思いもあるけど……根本はそこじゃないにゃね」

「……よかった」


 何がよかったのかはわからないが、ネイカは胸をなでおろしていた。

 それでネイカの気は済んだようだったので、俺もキャビーに疑問点をぶつけていく。


「その俺たちに求めてる役割ってのは何なんだ?」

「士気を上げるための要員にゃね。異業の軍勢は、今回みたいな小競り合いを何度かした後に大規模集団になって攻め込んでくるのにゃ。その時にこっちにも異業……要は不死の存在がいるってことをアピールすることで住民の士気を高めるためにゃ」

「じゃあ、実務的なモンはあんまりないってことか」

「そうにゃね。ちょっとだけ戦ってるところを見せてほしいのにゃ」


 帝国内で戦う分には、こちらとしては何も失うものはないので一向に構わない。

 しかし、たしかに相手の攻撃を受けても(セーフエリア内なら)いつまでも倒れない味方がいるというのは、士気の向上にもつながるだろう。……その分こちらもダメージは与えられないのだが。


「……そもそも、掲示板とかで予言されてるっぞって煽れば帝国を襲おうって話もなくなったりするんじゃないか?」


『たしかに』

『やるか』


 俺のふとした呟きに、リスナーたちが賛同を示した。

 その一方で、キャビーはコテンと首を傾げる。


「掲示板って、何の話にゃ?」

「あー、こっちの世界の話だ。誰でも見れる掲示板みたいなのがあって、そこで煽れば止まるんじゃないかと。ネットの……この世界に来てるやつらって反骨精神に溢れてるやつが多いし」

「にゃにゃー、そっちの世界のことはこっちもよくわからないからにゃあ。でも、こっちとしては、争い自体は起こってほしいんにゃけど……」

「あー、それは……」


 そもそも、これを配信している時点で掲示板に話が載るのは不可避だろう。となると、むしろ俺の言ったことが起こるとキャビー的にはおいしくない結果となってしまう。

 俺とキャビーが意見を求めるようにネイカを見ると、ネイカは特に気にしていない様子で答えた。


「んー、まあ私がそっち側だったらたしかに帝国がこの状態なのは不便だし、攻め落とそうって話があったら面白そうで乗っちゃうかなあ」

「……まあそうか。どちらにせよ「面白そう」か」


『俺らもノリノリだろうな』

『嬉々としてリークするわ』


 ネイカの話にほっと一息つくキャビー。

 俺はそんなキャビーに、最後の質問を繰り出した。


「で、その決戦はいつなんだ?」

「約一か月後にゃ」

「一か月か……」


 少し遠い話だなと思いつつも、頭の中で時期を逆算してみる。

 今は冒険の基盤も揃ってないわけだし、多くの正常なプレイヤーは素直にキャラクターの育成に励んでいるだろう。そして初のイベントが二週間後で、イベントが一週間続いたとしたら、そこからさらに一週間後というわけだ。たしかに時期的にも少し刺激が欲しくなってくるころで、納得がいく話だった。


「それじゃあそれまではあんまり出番はないってことかな?」

「そうにゃね。どうやってアーシーと二人を合わせようかと思ってたんにゃけど、偶然すぐに達成できそうにゃし。何かあったらこっちからメッセージ飛ばすにゃ」

「おっけー」


『一か月後か』

『それも参戦していいの?』

『俺は配信で見る』


「ねえキャビー。配信見てる人たちも来たいって言ってるけど」

「にゃにゃ?人が多い分には困ることはないにゃよ?」

「……だって」


『やったあああああ』

『あまりしゃしゃるなよ』


 こうして改めてお互いの認識を摺り寄せ合った俺たちは、その後帰ってきたファービラスに連れられて件のアーシーと会いに行くことになったのだった。

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