第28話 配信 アールの街の状況


「にゃほー。昨日ぶりにゃ」


『にゃほー』

『にゃほー』


 そんな軽い挨拶と共にやってきたキャビーと街内のホテルで落ち合った俺たちは、ひとまず面倒事を避けるためにアールの街を出るべくホテルを後にした。

 SFOのログインログアウトの仕様は、シンプルに戦闘中以外はいつでもログアウト可能でログイン時はそのログアウトした場所で再開されるというものだが、ホテルというシステムも用意されている。

 これはおそらく街中で突然プレイヤーが現れたり消えたりすることがNPCから見てあまりにも不自然だとする運営が用意した策で、セーフティーエリア内に点在するホテルでログアウトした場合はその時間が換算されていき、ホテルに泊まった合計時間で実績が解除されていくというだけのシステムになっている。ホテルに泊まることのデメリットはないし、セーフティーエリア内でログアウトするならホテルに泊まればいいという話だ。ちなみに宿泊費はタダ。良心設計だ。





「うわっ……」


 ホテルを出た瞬間に、ネイカの口からそんな呟きが漏れ出してきた。

 それも当然で、街内はこれでもかというくらいピリついていて、これ見よがしに甲冑を着込んだ人が街中を歩いていたのだ。


「一時間くらい前にアールの街が独断で『消える者』を受け入れないって宣言を出して、それからはずっとこんな感じにゃ」

「これは……こんな調子じゃ住民も出ていっちゃうんじゃないの?」

「そうにゃねー、住民からはかなり反感を買ってる状況にゃ。それでも、領主としては放火事件を許すわけにはいかないようにゃね」

「そりゃ城に放火されちゃあねえ。帝国の方はどうなの?」

「まだ何も反応してきてないにゃね。ただ、異業と対立するような対応をするとは思えないけどにゃ」


『メンツがな』

『当然』


「領主の対応としては見回りを厳しくして見ない顔の人には身分証明をさせている状況にゃけど、顔が知れてる人と一緒にいる場合は大丈夫にゃ。住民からの反発が強いから、そこまで厳しい手は打てないようにゃね」

「じゃあ、キャビーといれば平気ってこと?」

「そうにゃ。アタシは帝国民…………それもこの街が出身にゃからね」

「ふーん」


『キャビーすき』

『顔パス』

『住民の顔なんていちいち覚えられてるのか?』


 たしかにいちいち顔が覚えられているのかという疑問はあるが、キャビーが平気というのならそれを信用するほかないだろう。

 キャビーの言葉を聞いたネイカは、少し考える素振りをしてから足を止めた。


「……?どうかしたかにゃ?」

「んー……キャビーと一緒に居れば問題はないんだよね?」

「まあそうにゃね」

「なら、せっかくだし街内に留まらない?」


『いいね』

『きたああああああ』

『怖くない?』


 ネイカの提案に、リスナーたちがざわつく。

 キャビーはぽかんと呆けた顔をした後、ちょっと嫌そうな顔をした。


「にゃにゃ……あんまり目立つ行動はしたくないんにゃけど……」

「お願い!配信的にもそっちの方がいいし……えっと……そんな感じで!」


『wwww』

『建前が出て来なくて草』

『本音とそんな感じで』


 ネイカの絵に描いたような懇願を聞いたキャビーは、ぽつりと呟いた。


「……異世界の皆もそう言ってるのかにゃ?」

「異世界……あー、リスナーたちのこと?」

「アタシのことを見てる人たちにゃ」

「うん、それがリスナーだね」


『見てるぞーーー』

『キャビー頼む』

『お願いします』


「どうなのかにゃ!?」

「え……うん、まあ、お願いしますって言ってるけど……」

「なら仕方ないにゃあ」

「……それでいいんだ」


『ちょろい』

『ちょろかわ』

『キャビーすき』


 若干の呆れを浮かべるネイカ。

 キャビーは何やらぶつくさと呟くと、一人で頷いた。


「……決めたにゃ。とりあえず、知人がやってる店に行くにゃ」

「お店?」

「飲食店にゃね。まだ開店してる時間じゃないけど、入れてはくれると思うにゃ。とりあえずはそこで落ち着いて話をしたいにゃ」

「そっか、もちろん文句はないよ。ありがと」

「にゃにゃ、これもリスナーのためにゃ」


『サンキュー』

『キャビー俺たちのこと好きすぎない?』

『結婚しよう』


 キャビーがなぜ異様にリスナーの期待に応えたがるのかは不明だが……まあ確かに俺でも宇宙人から期待しているとか持ち上げらたら気分が高揚してしまうかもしれない。それか、キャビーが生粋のエンターテイナー気質なのか。どちらにせよ、こちらにとってはありがたい話に変わりはないのだが。


 そうして、俺たちはキャビーに連れられるがまま入り組んだ路地の中へと入っていくのだった。

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