第27話 配信 発端の後に
SFOにログインすると、一通のフレンドメッセージが届いていた。
しかし、フレンド登録をした覚えがあるのはネイカとキャビー、あとは団長のコリーだけだ。ネイカなら普通に直接言ってくると思うし、キャビーかコリーかということになる。
何気なくフレンド登録ということをしてきたこともそうだが、この世界のNPCは普通にゲームとしての機能を使っている。竜の試練もおそらくそのうちの一つだろう。
しかしその一方で、キャビーはギルドのことを『異業たちの集い』と言っていた。つまり、ギルドはNPCが使えない機能ということだ。となるとNPCにも使える機能と使えない機能があるということになるわけだが……
(んー、これはキャビーに確認しといた方がいいかもな)
今回の騒動もそうだが、おそらくこの先もNPCとプレイヤーの違いが問題として発展していく可能性は高い。その可能性を先に洗っておいて損はないだろう。
そんなことを考えつつメッセージを開いてみると、それはキャビーからのメッセージだった。
『アールの街で事件が発生したにゃ。アタシは街で色々と調べておきながら待ってるから、来たら連絡が欲しいにゃ。今のアールの街は異業が出歩くにはちょっと危険がある状態にゃ』
事件。詳細を聞かずとも、これは掲示板で盛り上がっていた放火事件のことだろう。
俺は軽くしか目を通していないが、一通り読んだネイカは三つ巴の展開になっていると言っていた。
第一勢力は、プレイヤーに対して敵対宣言を放ったアールの街を治める領主。第二勢力は、プレイヤーを擁護する一部の一般市民とハンターズギルド。第三勢力は、第一勢力ほど過激ではないが、第一勢力と第二勢力の争いの原点としてプレイヤーを嫌っている一般大衆だそうだ。
これはあくまで掲示板での情報なので信憑性には疑問が残るが、概ね正しいだろう。となると、今回の問題点が浮き彫りになってくる。
一つは、争点であるプレイヤーがどの派閥にも属していないことだ。この三つの勢力は己が正しいと思う主張を掲げているだけで、どちらが正義だ悪だという話ではない。当事者を抜きにした争いに、答えなどないのだ。
そしてもう一つ、そもそも、我々プレイヤーのことを一括りにしているところだ。法律という様々な立場の人全てに一つのルールを与えているものが常に波乱を呼んでいるように、多くの人を一つとして考えるのは難しい話だ。プレイヤーからしてもNPCに興味がない人もいれば、仲よくしたい人もいて、放火犯のように悪意を抱いている人もいる。確かに我々はプレイヤーという一つの集団なのだが、それらを一括りにして関わり方を決めるのは危険な話だろう。
とはいえ、いきなり現れたプレイヤーという存在に対しての付き合い方を決めるのが容易ではないこともわかる。それはこちら側も同じで、NPCに対してどう接したらいいのかまだ掴みかねている人が多いだろう。今回の事件がなければゆっくりと関係を深めて行けたかもしれないが、それは時すでに遅しというやつだ。
とにかく、俺はこの事件に対する立ち回りというやつを考えるためにもキャビーへとメッセージを返した。
それからすぐにネイカと合流し、すぐさま配信を開始。それはリスナーにも状況の説明をしておく必要があるので、キャビーと合流する前に済ませてしまおうという思惑からだ。ネイカ自身SNSで色々と情報を発信しているようだが、やはり配信という形での対応も必要だろう。
「あー、あー、テステス」
『きたああああああ』
『はやい』
『状況どうですか?』
『ちゃんと寝た?』
『昼過ぎ(七時)』
配信が開始されているかチェックすると同時に、大量のコメントが流れてくる。
朝だというのにかなりの数の視聴者が集まってきており、コメントを見る限り帝国の状況を把握するために来ているSFOプレイヤーも多く見受けられた。
「みんなおはよー。状況が状況ってことで朝からやってくよー」
『さすがに待ってなかった』
『通知で起きました』
『ねむい』
「わかるー。お兄ちゃんなんて駄々こねてたからね」
「駄々!?いや、駄々とかじゃないだろ……」
『かわいいw』
『うーん……あと五分……』
『お兄さんは朝弱い、と』
突然ネイカとリスナーに弄られて、変な汗が出てくる。
掴みのトークで兄をダシにするのはやめてほしいところだ。
「と、まあ雑談はこのくらいにしておいて、今の状況なんだけど───」
ネイカがリスナーに状況を説明し始めたのを、俺は黙って聞くことにした。別段俺からコメントがあるわけでもないし、状況もネイカの方が多く把握しているだろう。
そうして自分の解釈とネイカの解説が一致しているかすり合わせながら聞いていると、キャビーから返信のメッセージが届いてきた。
説明途中のネイカから目配せを受けて、俺がこっそりとそのメッセージを確認する。するとそこにはすぐに向かうといった旨のメッセージが書かれており、到着には五分もかからないということだった。
「───と、そのキャビーからちょうど今メッセージが来てたんだけど……お兄ちゃんどうだった?」
説明を切りの良いところで切り上げたネイカから、パスを振られる。
「あと五分くらいでこっちに着くそうだ」
「おっけー。それじゃあ説明はこのくらいにしておこうかな。詳しく知りたかったら色々調べてみて!」
『助かる』
『面白いことになってんな』
『普通に事件で草』
ネイカの説明を聞いたリスナーはかなり盛り上がっており、皆この事件を見世物かなんかとして面白がっている様子だった。
実際リスナーにとっては見世物だろうし、こちらはそれをおもしろおかしく共有するというのが仕事でもあるだろう。しかし、それだけの単純な話ではない『何か』が俺の中に渦巻いていた。そして、ネイカの表情からも同じことを考えているであろうという感じがひしひしと伝わってくるのだった。
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