第23話 配信 自由団の活動
ごたごたのうちにアールの街まで戻ってきていた俺たちは、無事にキャビーと再会することができていた。
というのも、その団長というのはちょうどアールの街に滞在していたらしく、すぐ連れてくるという意味合いだったらしい。
「それで、その人が団長ってわけ?」
ネイカのその発言には、棘とまではいかなくとも若干の懐疑の色がはらんでいた。
「そうにゃ。ネイカの言いたいこともわかるけど、この人が自由団の団長にゃ」
「おーい。お前がそれを言うかあ?普通」
『おっさんか』
『昼間から酒飲んでそう』
気が抜けるような喋る方をするその人は、気だるそうな瞳に無精髭を生やした、いかにも世離れしたおっさんといった雰囲気の人だった。
その人はポリポリと頭を搔きながら俺たちに視線を向けると、眉をひそめた。
「あー、まあアレだ。わからんことはキャビーに聞いてくれ」
「丸投げにゃ」
「うるせー。とりあえず……ほらよ」
ほらよ、という言葉と共に送られてきたのは、団長───コリーからのフレンド申請だった。
「NPCにもフレンド機能とかあるんだ……」
「あー、そうだな」
「……えっ」
『え』
『そうだな!?』
『NPCの自覚あって草』
ぽつりと零れたネイカの呟きに同意を示すコリー。それは、俺たちにとっては衝撃の一言だった。
NPCが自分のことをNPCと理解しているのなら、この世界がゲームであるということも理解しているのだろうか?いや、だとするとなぜプレイヤーが『消える者』なんていう扱いになっているのか……
そんな風に俺たちが思考の渦に囚われかけた時、コリーがめんどくさそうに口を開いた。
「んじゃー後で自由団の掲示板に招待しとくから、じゃあな。後は任せた」
「あ!ちょっと待つにゃ!アタシにもやることが……って、聞いてないにゃ」
キャビーの制止も耳に入れずに去っていったコリーは、すぐにその姿を人ごみに眩ませてしまった。キャビーはやれやれと首を振って、諦めたようにため息をついた。
「にゃにゃ……仕方ないにゃ。アタシの方から詳しい話を───」
「ちょ、ちょっと待って」
「にゃ?」
キャビーの話を断ち切ったネイカは、困ったような顔で俺に視線を送ってきた。
もちろんその意味はわかる。わかるが……いや、ここは思い切って聞いてしまった方がいいかもしれない。
そう思った俺は、少しばかりの緊張を感じながら口を開いた。
「さっき団長さんが言ってたことなんだが……NPCってことがわかってるのか?」
『よく聞いた』
『怖い』
『うおおおお』
俺の問いに、リスナーたちも一段と盛り上がる。
しかし、キャビーの回答は驚くほど拍子抜けのするものだった。
「えぬぴー……いや、ちょっとよくわからないにゃ。団長もどうせテキトーに話合わせただけにゃ。ていうか、団長の言うことは八割スルーでいいにゃ」
「……なんだそりゃ」
『wwww』
『おいw』
『団長のおっさん……』
紛らわしいことするなよ……と頭を抱えたくなった一方で、俺は少し安心もしていた。
それがなぜかはわからなかったが、隣にいるネイカの表情を見ても、俺と同じようにどこかホッとしているような表情を浮かべている。
「それで、それはなんなのにゃ?」
「あー、いや、気にしないでくれ。こっちの話だから」
「にゃにゃ?まあいいにゃ。団員に対して下手な詮索をしないのも自由団のウリの一つにゃ」
「……助かるよ」
もしお前たちはNPCだ、なんて言っても、頭のおかしな奴だと思われるだけだろう。
俺たちにとってこれはゲームでも、彼らにとってはこの世界こそが唯一の世界なのだ。それはきっと、どちらが正しいだとか上だとかそういう話ではない。
話をするだけ無駄というやつだ。きっと。
「それで、話の続きにゃけど、うちには七人の団員がいるにゃ」
「七人?」
『少なw』
『少数精鋭か』
『底辺集団かよ』
「そうにゃ。自由団に入ったら、まずは全員と顔合わせをしないといけないっていうのがルールにゃ。変な奴が多いから気を付けるにゃ」
「えー、それはめんどくさいなー」
「にゃにゃ、どうせみんな世界各地にいるから、適当にぶらぶらしながらでいいにゃ。ていうか、アタシもまだ会ったことない奴とかいるにゃ」
「んー、まあそれなら……」
『ww』
『期待を裏切らないゆるさ』
『ルールとは?』
あまりの適当さにざわつくリスナーたち。
こちらとしてはありがたくもあるが、それはそれで団としてどうなのか?と不安を覚えるのも確かだ。
「みんな掲示板で近況報告とかしてるから、近い人がいたら顔合わせに行くっていうのが定番にゃね。……あ、掲示板に顔出さない奴もいるにゃ」
『みんなじゃねえじゃねえかw』
『ダメだ、頭が悪すぎる』
「でも、二人には全員に顔を見せといてほしいかもにゃ」
キャビーがそう言うと、ネイカは露骨に嫌そうな顔をした。
「いや、そんな顔しないでほしいにゃ……」
「だってさっきいいって言ったのに」
「にゃにゃ、それはごめんにゃ。でも、自由団は元々異業が現れて以降のことを想定して作られた団なのにゃ。団長曰く、まず間違いなく騒乱の世界になるからそれを難無く切り抜けるための団らしいにゃ」
「ふーん?」
「だから、みんな異業には興味があると思うのにゃ」
「……それなら、別に私たちじゃなくてもその辺にいるのでいいんじゃない?」
「にゃ……そうかもにゃ。じゃあやっぱりいいにゃ」
『会話に中身がなさすぎるw』
『考えてから喋れ』
『キャビー好き』
あまりの適当さにリスナーから総ツッコミされるキャビー。
実際に話を聞かされているこちらとしては、非常に疲れる相手だった。
「まあ、本当に何かあったら団長が何か言うにゃ」
最後はそんな投げやりな言葉を残して、キャビーによる自由団のレクチャーが終了したのだった。
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