第22話 配信 意識


「よかったのか?その……色々と」


 アックスコボルトの討伐を終え、一度噴水広場まで戻ってみると言ったエリーシャたちを見送った後、俺はネイカに漠然とした質問を投げかけていた。うまい言葉にできなかったのは、俺が無知な故だ。

 そんな俺の質問を聞いたネイカは、考えるような素振りを見せた後に少し困ったように笑った。


「どうだろ。炎上しないといいけど……私もあの子たちも」


『ネイカはともかく向こうはなあ』

『案件受けて荒らされましたはちょっと』

『こっちも燃料は十分だけどな』


 それぞれの意見を繰り広げるリスナーたち。

 向こうのリスナーがどう思っているのかはわからないが、当事者のリスナーたちが炎上すると思っているのなら炎上してもおかしくないだろう。……いや、よく考えたら俺もその中の一人なわけか。


「炎上ってどうなるんだ?」

「どうって、まあボヤ騒ぎくらいなら無視でもいいかもしれないけど、場合によっては一旦活動休止とか……」

「それはまずいな」

「うん。でも、あの子たちの方が大変なんじゃないかなあ」


 ネイカはそう他人事のようにボヤいた。

 実際それはそうなのだろうが、俺はそんなことより自分たちのことの方が不安だった。言ってしまえばあの子たちとはもう関わることもないだろうし、いなくなっても気づかないだろう。

 そんな俺の考えを見抜いてか、ネイカはぽつりぽつりとネイカ自身の考えを語りだした。


「……まあ、助けないわけにもいかなかったし、後悔はしてないよ。勢いで色々偉そうに言っちゃったけど、それは私がそう思ってるってことだし。それに、あの子たちも私も、配信でSFOを盛り上げようっていう一つの仲間みたいなものだから……私はランカーを目指してて、あの子たちはまったりやって。そうやって住み分けてさ、幅広い人に見てもらって……っていうのは私の押し付けになっちゃうのかな」


『シアーズに求められてたのはまったりでしょ』

『俺たちはネイカを見に来てるだけだから』

『まあでも実際そうよな』


「たしかにあの子たちがまったく悪くないとは言い切れないけど、やっぱり初めてのゲーム配信でさ、右も左もわからなくてコメントに頼るって言うのはある意味当然だと思うんだよね、私は。だからこういうことになるっていうのも簡単に予想はできるわけで、そこはあの案件に関わってる人たちの怠慢でもあるよ。表立ってるあの子たちに全部が全部悪いって言うのは筋違いって言うか、ちょっと可哀想だし……まあ、私もそう言った本人なんだけど。それも直接がっつりと」


『www』

『でも誰かが言わないといけない』

『あれはちょっと可哀想だった』


「まあでも、いいんじゃないかな。運営としては都合悪いかもしれないけど、MMOにああいうことは付き物だし。このゲームの良い部分も悪い部分も見て、それでもあの子たちが楽しんでやれてればそれが一番だよ。だから、今回の件は問題になると思うけど、あの子たちには続けてほしいかな、私としては」


『正論』

『きれいごとばかりじゃないからな』


「そうじゃないとせっかくレクチャーしたのが無駄になっちゃうし」


『おいw』

『照れ隠し』

『本心に見せかけた建前』


「はい!この話題おしまい!」


 ネイカが少し顔を赤らめながらそう言うと、リスナーたちも空気を読んでピタリとその件に関するコメントが止んだ。

 俺はネイカの言葉をずっと黙って聞いていただけだったが、我が身のことばかり考えていた自分のことが少し恥ずかしくなった。ただ一プレイヤーとしてゲームを遊んでいる気分でいたが、俺もSFO配信者の一人で、このゲームのイメージに関わる一員なのだ。その意識がすっぽりと抜け落ちていた。

 リスナーのノリがいいから忘れていたが、俺は彼らにこのゲームの楽しさを伝えるべき立場なのだ。本人たちがそう思っていなくとも、その責任が俺にはある。

 俺一人で細々と配信をするだけならお気楽でもいいかもしれないが、配信を仕事にしている『ネイカ』という名前の一端を俺が担っているのだ。その意識をしっかり持って忘れないようにしないといけないな、と俺は自分の心に強く言い聞かせたのだった。

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