第20話 配信 不穏
キャビーが団長を連れてくると言ってどこかへと去っていった後、俺たちはその間狩りでもしようということでアールの街の周辺を回っていた。
『入団祝い』という謎の名目で渡されたのは十万ゴールドで、いきなり小金持ちになった俺たちは中級シリーズの装備を買い集めていた。しかし、この様子なら正規の方法で稼がなくても、大道芸を披露したり、それこそ詐欺でNPCから巻き上げたりなんかでもゴールドを稼げるのではないだろうか。もちろん、そんなことをする気はないが。
そして、やはりというべきかアールの街の周辺では多くのプレイヤーが狩りを行っており、むしろここでは狩りの効率が悪そうだった。
「お兄ちゃんどうする?もう少し遠くまで行く?」
「そうだな……問題はキャビーがいつ帰ってくるかって話だが」
キャビーは「団長を連れてくる」としか言わずに飛び出していったため、いつ戻ってくるかが見当もつかない。
元社会人の俺にしてみればありえない話だったが、ネイカはたいして気にしていないようだった。
「まあ問題ないでしょ。いつかは会えるよ」
「いつかって……随分適当だな」
『いつかw』
『ネイカも時間にルーズだからな』
『予約枠の時間は守れ』
「それに、自由団だし。私たち」
何だその口実は、とため息が出そうになったが、元はと言えばキャビーのせいだった。これではネイカの開き直りにも反論できないし……というか、俺はどの立場なんだ?
「それじゃあ行くよー」
「……おう」
『諦めた』
『自由だなあ』
キャビーもネイカも適当すぎて考えるだけ無駄だと判断した俺は、考えることをやめてネイカの後ろについて行くのだった。
「……なんだあれ」
俺たちが帝国を少し離れて狩場を探していると、奇妙なものを発見した。
それは何かに群れるようにして集まっているアックスコボルトで、その数は十を優に超えている。
その光景を呆然と眺めていると、一人のリスナーがあることに気がついた。
『シアーズの子じゃない?コボルトに群がられてるの』
そのコメントを読んだネイカが、険しい表情に変わる。シアーズというのが何を指しているのか俺にはわからなかったが、ネイカにとっては何か良くないことのようだった。
そしてそのコメントの通り、目を凝らして群れの中心を見てみると確かに寄り添うようにしてへたりこんでいる二人組がいた。
「……ごめん。助けないとマズいかも」
「友達なのか?」
「いや、面識はないんだけど……状況がちょっと」
歯切れの悪いネイカ。そんなネイカの考えを補足するように、状況を察したリスナーのコメントが流れてきた。
『あの二人って案件の子じゃね?』
『MPKくせえ』
『たしかにそれはまずい』
案件。MPK。
そのワードを見るだけでも十分に不穏な空気は伝わってきた。MPKというのは知らないワードだが、PKというのはプレイヤーキルのことだろう。だとすると、状況からしてMはモンスターのMと推察できる。少なくとも俺の知識を参照する限りは、アックスコボルトがあそこまで大勢で群れていたのを見たことはない。つまり、あの群れは誰かが意図的に集めたと考えた方が自然だ。
さしずめMPKというのは、誰かをキルするためにモンスターを大量に集めて襲わせるといったところだろうか。つまり……
「……要は、SFOを広めるために案件を受けた配信者の子たちがMPKされてるってとこか?」
「お兄ちゃん理解が早すぎ……今は助かるけど」
「なるほどな」
『大丈夫?』
『行っていいのか?』
『行け』
きっと、彼女たちはSFOを楽しんでいる姿を配信することが仕事なのだろう。だとすると、今の状況は大変面白くないということになる。
しかし、そんな彼女たちの配信にネイカという他の配信者が乱入してもいいのだろうか。こちらが善意だったとしても、相手の邪魔になるということは多々ある。そもそもこの状況も、MPKだということが確定しているわけでもない。彼女たちがわざと集めているという可能性も───
「……あ」
俺がそんなことをうだうだと考えていると、不意に彼女たちの瞳がこちらを捉えた。二人のうち薄い青色の髪をした方の少女がネイカの姿を確認すると、一瞬躊躇ってから大声で叫びを上げた。
「助けてください!!!」
「……!」
その声を聞いてからのネイカの行動は、まさに迅速だった。
十匹以上のアックスコボルトの群れに迷いもなく突っ込んでいくと、剣舞のようにアックスコボルトを圧倒した。その姿は圧巻という他になく、ネイカと並んで戦うべきだった俺ですら呆然とそれを見ていることしかできなかったほどなのだった。
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