第19話 配信 竜力


「竜っていうのは世界各地にいるんにゃけど……竜力を感じるってことはアンタたちも竜を倒したんにゃよね?」

「倒し……まあ、そうだな」


『そうじゃないだろw』

『そうではないな』

『www』


「それで、竜を倒すと竜力が身に着くのにゃ」

「それはどんな力なんだ?」

「にゃ……特に意味はないにゃ」

「は?」


『こいついっつも同じこと言ってんな』

『意味はないにゃ』

『意味はないにゃ』


 意味がないって……なんだそれは。


「まあ、要は一つの基準ってことにゃ。竜力を手に入れて竜爺のところに行けば、竜力を見れるようにもしてもらえるにゃよ」

「それは……何の意味があるの?」


『おい』

『www』

『やめたれw』


「特に意味はないにゃ」


『www』

『意味はないにゃ』

『意味はないにゃ』


 ……。

 いや、よく考えてみたら、一つのランキングみたいなものだろうか。各地にいる竜を倒して、それを競い合う。ゲームとしてみれば、一つのコンテンツとして成立している。

 しかし、それがNPCにも適応されているとなると理解しがたくなるが。


「竜力を集めても意味がないなら、キャビーはなんで竜力を集めてるんだ?」

「にゃにゃ。集めているというよりは、ついでかにゃあ」

「ついで?」

「たまたま近くを通ったから倒しとくみたいな感じにゃ」

「命をかけてまでか?」

「そうにゃねー。まあ、竜力がないと仕事が貰えないからにゃあ」


 仕事が貰えなくなる?

 つまり、竜力は学歴みたいなそう言うものか?いや、それにしても命をかけるのはどうかと思うが……


「それに、そこまでしなくても途中でやめればいいにゃよ?」

「……え?」

「うそ……」


『え』

『まじか』

『うっそだろ』


「知らないのかにゃ?って、竜爺に会ったことないんだったかにゃ。竜爺のとこの竜の試練を受ければ色々教えてもらえるにゃよ」


 軽い感じでそう言うキャビーを前に、俺とネイカはため息をつかざるを得なかった。


「にゃにゃ?どうしたのにゃ?」

「いや、なんでもない……」

「?……まあとにかく、アンタたちを選んだのは竜力があったからにゃ。異業はみんなレベル1でやってくると聞いたから、こんな短期間で竜の試練を突破するとは相当な実力者と見たにゃ。うちは狭き門だけど、アンタたちなら歓迎にゃよ?」

「……アリガトウゴザイマス」


『あっ』

『強いからよし!』

『詐欺だあ』


 なんだろう。そんな気はなかったのに騙してるみたいで心が痛むんだが……


「というわけで、どうかにゃ?自由団」


『入ろう』

『キャビー好き』


 キャビーの勧誘に乗り気なリスナーたち。

 ネイカはしばらくコメントを眺めてから口を開いた。


「……入ったら、私たちには何が求められるの?」

「そうにゃねえ……国には属さないことが条件にゃけど、それ以外は特にないにゃ。あとは……暇な団員が手を貸してほしい団員を手伝ったりしているにゃね。身内だけのハンター依頼みたいなものにゃ」

「……それ面白いかも」

「お、興味あるかにゃ?」

「うん、入団したい、お兄ちゃんもいいよね?」

「おう」

「決まりにゃ!」


『やったああああ』

『何か手伝ってもらいたいのかな?』

『ネイカならむしろ手伝いに行きそう』


 ネイカの決断に盛り上がるリスナーたち。

 何がネイカの琴線に触れたのかは俺にもわからなかったが、まあネイカのやりたいようにやればいいだろう。


「それじゃあ早速団長に挨拶に行かなきゃなんにゃけど……先にこっちもいろいろと教えてほしいにゃ」

「ん?私たちに教えられることなんてないと思うけど」

「いやいや、異業のことにゃ。こっちも情報が欲しいのにゃ。ダメかにゃ?」


 上目遣いで首を傾げるキャビー。

 しかし、いきなり教えろと言われても何を教えたことかもわからない。そもそも、キャビーは『ギルド』の存在を知っていたはずだ。だとすると、キャビーもすでに知っていることと知らないことがあるということだろう。

 そう言った意味合いを込めてネイカに視線を送ると、ネイカは黙って頷いた。


「何が知りたいのかわからないから、質問形式でいい?」

「わかったにゃ。私たちが気にしていることはただ一つで、異業ってのは裏で繋がってるのかにゃ?ってことにゃ」

「裏で?どういうこと?」

「にゃにゃー、異業についての情報は予言の巫女が色々と暴いているんにゃけど、異業自体の話はまた別なのにゃ」

「……つまり、私たち個人のことね?」

「そうにゃ。どこから来てどこへ行くのか……それはきっと知っても仕方のないことにゃ。だから、異業という存在が一つの集団なのかどうか。それを知っておきたいのにゃ」


 俺は、なるほど、と素直に思った。

 例えるならば、俺たちは宇宙人のような者なのだろう。もしある日突然地球に大量の宇宙人が来たら、私たちはどう思うだろうか。

 一番気になるのは、何のために来たのか、だ。この世界を滅ぼしに来たのか、ただの観光気分で来ているのか。これを言い換えると、裏で繋がっているのか、個人個人で来ているのか、ということになる。

 そして、その答えは……


「繋がってないよ。私たちは一人一人自分の意志で、この世界に遊びに来てるだけ」

「……そうかにゃ」


 短くそう答えたキャビーは、どこかほっとしたような表情をしていた。


「……ん?ということは、アンタたち───というか、いい加減名前を教えるにゃ!」

「あ、私はネイカ」

「俺は……なんだっけ」


『なんだっけ!?』

『そういや知らない』

『お兄さんはお兄さん』


「えーっと……猫Tだ猫T」

「変な名前にゃね」

「お兄ちゃんはお兄ちゃんでいいよ」

「じゃあお兄ちゃんにゃ」

「じゃあってなんだ……?」

「それで、ネイカとお兄ちゃんは何しに来てるのにゃ?」

「いや、俺はお前のお兄ちゃんじゃ───」

「私たちは……お金稼ぎに来てるかな?」


『正直www』

『ネイカの養分』

『お金あげようね』


 ネイカの回答に、キャビーが首を傾げる。


「お金?どういうことにゃ?」

「んー、なんていうか、私たちは別の世界から来てるんだけど、その元々の世界にいる人たちに私が見ているものを共有して楽しんでもらって、その対価としてお金をもらう……みたいな?こう見えてもエンターテイナーなんだよ?私」

「…………」


 キャビーがネイカの回答を聞いてから、しばらくの間動きを止めた。

 伝わりづらいだろうか。そもそも娯楽というものは地球上だけでも文化が違えば違うものだし、異世界ともなると想像すら難しいのかもしれない。

 そう思って見守っていると、突然キャビーがネイカの瞳を覗き込んだ。


「……なに?」

「見てるのかにゃ?アタシのことが見えてるのかにゃ!?」


『見てるぞーーー』

『キャビーちゃーーん』

『かわいいよーーーー』


 キャビーの反応に湧き上がるリスナーたち。


「どうなのにゃ!?」

「えっと、見てるよーーって言ってる」

「にゃにゃ!?異世界と繋がったにゃ!?」


『かわいい』

『推せる』

『にゃにゃ』


 その後も、俺はしばらくの間妙に興奮したキャビーとそれをなだめようとするネイカを見守ったのだった。

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