第一章 アールの街反乱編 前編

第17話 配信 キャビーとの出会い


「んー……困ったなあ」


『詰みだあ』

『どうすんの』


 アックスコボルトの討伐を終えた俺たちは、どうしようもなさに頭を抱える事態へと陥っていた。

 当の問題は、ゴールド不足である。馬鹿正直にアックスコボルトを100体倒したからと討伐依頼の報告をした俺たちは、当然ながら借りていた装備を返すことになった。そして対価としてもらったのが、一万ゴールドだ。これを二人で分割すると、五千ゴールド。これがどれほどの金額かと言うと、アールの街の露店で売っている最低価格の武器が八千ゴールドだといえば伝わるだろうか。


「俺はどうせ召喚獣で戦うわけだし、金はなくてもいいが……」

「貰う手段がないからねえ」


 SFOではアイテムやゴールドの譲渡やトレードが不可能だ。各国で正式な手続きを踏んで露店契約を結べば自分の店を出すことはできるんじゃないかと言われているが、今は関係のないことである。

 つまり、どうあがいても俺とネイカの手元に五千ゴールドずつということになる。ネイカの武器を買うには多少のゴールドを稼がないといけないわけだが……


「二人とも丸腰は厳しいからなんとか戦闘を避けつつゴールド稼ぎしたいけど……」


 ゴールドの入手方法は、俺が把握している限りだと三つある。

 一つ目は討伐依頼。二つ目はハンター登録をして依頼を達成すること。最後は───普通に働くことだ。例外的にはイベント報酬などでも手に入るかもしれないが、今は開催されていない。

 そしてこの中で戦闘を避けてゴールドを稼ごうと思ったら、普通に働くしかない。


「働くのは嫌だああああああ」

「……俺もちょっと」


『社不兄妹』

『働けニート』

『働くな』

『この妹にしてこの兄あり』


「よし……どうしよっか」


『なにがよしだよw』

『よし(よくない)』

『頭悪いとこ出てるぞ』


「うっさいわい!絶対働くのはなし!」


 勢いよく宣言するネイカ。

 なんだろう、目から涙が……


「とにかく、なにか……」

「にはは。そこのお二人さん、お金でお困りかにゃ?」


 街中でそんな話をしていたからか、何やら怪しげな雰囲気を纏った人が話しかけてきた。

 いや、人ではない。頭には猫耳を生やしていて……キャラクリの時に見た気がするけど、なんだったか。


『ナイトキャットだ』


 それだ、ナイトキャット。有り体に言えば、猫の獣人といったところだろうか。


「……誰ですか?」

「そんな警戒しないでほしいにゃあ……アタシはキャビー。しがないスカウターにゃよ」

「スカウター?」

「簡単に言えば、うちの団に入らないかにゃ?って話だにゃ」

「あ、ごめんなさい、ギルドはまだちょっと……」


『誰だ』

『帰れ』


 ネイカが断ろうとすると、キャビーはにんまりと笑った。


「違うにゃ違うにゃ。『異業』たちの集いのことじゃないにゃよ?」


『何それ』

『これプレイヤー?』

『おいおいおいおい』


 異業。聞き覚えのないその言葉に、俺たちは顔を見合わせることしかできなかった。


「異業たちの話も聞きたいけど……一方的というのは好きじゃないにゃ。だから、情報交換と行かないかにゃ?」

「……どういうこと?悪いけど、私には何も思い当たる節がないんだけど」

「にゃにゃ、これは失礼したにゃ。異業っていうのは私たちが使っている『消える者』の呼び名にゃ」

「消える者……」


『???』

『イベント?』

『ストーリー?』


 SFOにゲームとしてのストーリーは存在しない。つまり、仮にこのキャビーがNPCだとしたら誰の前にでも現れるキャラではないということだ。

 それに、『消える者』というワード。これはおそらく、俺たちプレイヤーのことではないだろうか。プレイヤーは、ログアウト中はこの世界に存在していない。消える者と呼ばれるのに相応しい存在だろう。


「……キャビーさんは、消える者じゃないってことですか?」

「にはは。話が分かってきたかにゃ?」

「それを証明することは?」

「んにゃ……『強さ』で証明するというのはどうにゃ?」


『きたああああああ』

『どういうこと?』

『選ばれし者』

『さすが、持ってる』


 キャビーがひりつくような視線で俺たちのことを見つめてくる。絶対に自分が上であることを確信したような、こちらを試している視線だ。


「……わかりました。じゃあ、デュエルで」

「にはは、ほんとに素人なのにゃね」

「……?」

「まあ、やればわかるにゃよ」


『やったれ』

『頼むぞネイカ兄』

『生意気だなこいつ』

『潰せーーーー』


 煽るキャビーと、それに乗っかるリスナーたち。

 こうして、俺たちは配信的には旨い展開ともいえるキャビーとの出会いを果たしたのだった。

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