第16話 配信 アックスコボルト討伐
「お兄ちゃん、そっちに一匹行ったよ!」
「了解!」
アールの街周辺まで戻ってきた俺たちは、アックスコボルトの討伐を進めていた。
俺がスキルを無事に取得したこともあり、狙っているのは小規模で群れているアックスコボルトだ。最初こそは群れを狙うことに少々の不安を感じていたが、俺の魔法獣───メタルバードは、現段階では間違いなく強いスキルと言えた。
様々な検証も兼ねてのアックスコボルト狩りだったが、結論から言えばAI操作の魔法獣には指示を出すことも可能だった。ネイカの言うことには全く耳を貸さないが、スキル使用者の俺の言葉には完ぺきに従ってくれる。それこそ人間だったら覚えきれないような複雑な指示を出しても、一度で全てを理解してくれるのだ。ただ、言葉にした以上のことはしてくれないが。
現在俺がメタルバードに出している指示は二つで、基本は俺の頭上周辺で待機しておくことと、俺がメル(メタルバードに付けた名)と叫んだらアックスコボルトに向かって『ブレイブアタック』で攻撃をすることだ。
このブレイブアタックはメルが初期から取得していたスキルで、一秒ほどかけて上昇してから、勢いよく滑空して突進するといったスキルになる。
突進は上昇が終わった時点での相手の位置に突っ込むという至ってシンプルなもので、追尾したりはしない。つまり俺がするべきサポートは、メルの上昇が終わってから相手に突進するまでに相手をその場にとどめさせることだ。相手が人なら大変かもしれないが、モンスター───少なくとも、アックスコボルトに対してはそう苦労することでもなかった。
「メル!」
アックスコボルトがスキル『スマッシュ』を発動させたのを見て、メルに合図を出す。メルが条件反射のように上昇を始めたと同時に、アックスコボルトが俺に向かってスマッシュを繰り出した。
「よっ……と」
俺はそれを慣れた動作で受け流す。スキルというものは、一度覚えてしまえば対処はかなり楽なものだった。
その中でもアックスコボルトが覚えているスキルはスマッシュとタックルのみで、タックルは出も早く若干面倒なスキルだが、スマッシュの対処は容易だ。予備動作がわかりやすく、スキル自体も斧を縦一直線に振り下ろすだけ。
そしてこのスキルの厄介でありありがたくもあるところは、振り下ろしを躱すと地面に斧を叩きつけて衝撃波を発生させるところだ。これは跳躍して地面から足を浮かせておくだけで対処が可能であり、その余韻でアックスコボルトが数秒動かなくなるのだ。
つまり、俺はアックスコボルトを引き付けてスマッシュを使ってくるまで待ってメルに指示を出すだけ。あとは、メルがアックスコボルトを吹き飛ばすのを眺めていればいいのだ。
今回も、メルのブレイブアタックをもろにくらったアックスコボルトはたった一撃でこの世界から消えてしまった。
「……なんか、思ったより退屈だな」
『雑魚狩りはこんなもん』
『パターン組むとあとは作業だよな』
『ネイカ視点だから見えないけど、たまにメルって叫んでるのは分かる』
「いやホント、叫んでるだけだぞ俺。一撃だし」
『www』
『メル!』
『ぶっちゃけメルくんぶっ壊れてるよな』
「そうだよな。ブレイブアタックが隙だらけで威力が高めってのもわかるんだけど、その範疇を超えてるというか」
『ステータスでしょ』
『さすがレア』
『強いからよし!』
魔法獣がどういうステータスをしているのかはわからないが、ネイカが何度もスラッシュを当てて倒しているのに比べれば、メルのブレイブアタックはおかしな威力をしている。無論予備動作の長さやスキルの単調さ、外れた時のデメリットを加味するとスラッシュより威力がかなり高く設定されていても違和感はないのだが、それでもそんなに?と思うほどだ。やはりステータスが高めなのだろうか……
「ていうか、SFOって全スキル取得可能なんだよな?」
『たしかに』
『ブレイブアタックできるのか?w』
『見てみたい』
『嘘だろwww』
「いやー、やっぱ無理があるよな……あるとしたらモンスター専用スキルとか?」
『あー』
『プレイヤーは平等ってだけか』
『あくまでジョブとかの概念がないってだけだし、モンスター専用はありそう』
俺がリスナーたちとそんな談義を開いていると、いつの間にかアックスコボルトを二体処理し終えたネイカが呆れたようにこちらを見ていた。
「ちょっとお兄ちゃん、雑談してないで手伝ってよ」
「あ……悪い」
『www』
『ごめん、お兄さんの声しか聞いてなかった』
『俺も画面見てなかった』
「ちょっと!」
リスナーの悪乗りにぷりぷりと怒るネイカ。
仕方ない、こういう時は……
「すまんすまん、後でアイス奢ってやるから」
「いらないし!」
「あれ?」
『アイスw』
『子供扱いで草』
『www』
おかしいな……昔はこれ言えば機嫌直してくれたんだが。
「ていうか別にそこまで怒ってないし……次行くよ」
「ん、了解」
俺たちはこうして、半ば作業のようにアックスコボルトの討伐を済ませたのだった。
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