調理その十四 二つ目の大会 ~レシピ~

「全国高校生WASHOKUコンテスト」のチームは、我が部長こと藤島ふじしまさんと、我がエースこと恋奈れなに決まった。

全く心配は要らないだろう。

正に"完璧かんぺき"というに相応ふさわしい、極限きょくげんまでまされた藤島さんの料理。

正直藤島さんを超えるような神業かみわざを持つ同学年の生徒っているんだろうか。

もしいるとしたら、そいつも強烈な個性を持っているに違いない。

抜群ばつぐんの技術を持つ代償に、性格に難が出る。今まで漫画まんがを読んできた経験上、これだけは言える。

いや、そもそも現実に漫画の要素を持ってきたらいけないな。

まあとにかく、面倒臭い性格をお持ちなのは間違いないだろう。

そして、チームメイトの恋奈。

漁師を親に持つ家庭だけあって、魚を扱った料理は大の得意だという。

俺自身まだ彼女の腕前うでまえを目の前で見たことはないが、ステータスだけで十分に安心感が持てる。

この二人が担当してくれるほど、頼もしいことは無いだろう。


俺がこうして出場メンツについて考えていると、藤島さんが次の大会の紹介をし始めた。

「さて、2つ目の大会ね。それは、『高校生レシピグランプリ』よ」

「「レシピグランプリ?」」

俺と恋奈は、同じことを聞き返した。

名前に捻りが無い。

それが第一印象だった。

一つ目に部長が紹介した大会名には、"和食"という明確なテーマがあったのに、今回はただのレシピだ。

つまり、ジャンルはこだわらないというわけだ。

「そうよ。おそらく今のあなたたちは、名前が普通過ぎて退屈そう、なんてイメージを持っているのでしょうね」

「えっ、何で分かった?」

「あら、本当だったかしら?」

「ほんとほんと。あたしも全くユーキと同じこと思ってた。名前に面白みが無さそうだよねー」

「でもね、この大会。通年で出場している中では、一番難易度が高いの」

「へー、そうなんだー」

「ちょっと結城君。声にやる気が無いのバレバレよ。いくら自分が選ばれないからって、その態度はやめなさい」

「そうだよ。もし誰も出場する子がいなかったら、選手はユーキになるかもよ?」

「おいおい。怖いこと言うなよ。流石にもう同じ冗談は通じないぜ」

「でも才ちゃんだよー。何しでかすか分からないよー」

「なあ、もう俺を出場させますなんて、そんな冗談はつかないよな?」

「当たり前じゃない。冗談じゃなくてもこの大会においては、あなたを出場させるなんてこと、絶対に言わないわ」

「そ、そこまで否定しなくてもいいんじゃないんすか…」

まるで塩をかれた青菜のように弱々しくなった俺の様子に、恋奈は愉快そうに笑っていた。


「この大会の難易度が高いとされる理由は2つ。まず一つ目は、チーム出場ではなく、

うでを組みながら藤島さんは、そう教えた。

「え、ソロで出場するの?」

「そう。つまり食材、ラインナップ、味つけ、これら全て一人で完結しなければならないの」

そして俺と恋奈を交互ににらむ。その目つきは、絶対に受験者の不正を見逃さない厳格げんかくな試験官のようだ。

「まじか。今までチームプレイしかやってこなかった俺にしては、想像もつかないな」

「あたしも個人メインの競技だけど、基本泳ぐだけだし。細部まで考えるのは苦手かも」

「でも、全く一人で解決しないといけないわけではないわよ。勿論もちろん、都度相談とかも受け付けるわ」

と、一応念のためとでも言うかのように、藤島さんは保険を入れておく。

勿論それは大前提だろう。だとしてもなあ…。

「そして二つ目は、ホスピタリティが不可欠だからよ」

「「ホスピタリティ?」」

またもや重なった。

「ちょっとユーキ。さっきから被らせないでよー」

「お、お前こそ被ってくんな!」

「いーや、今のはあたしの方が反応早かったもん!」

「いやいや、俺瞬発力には誰にも負けない自信あるから、俺の方が先さ!」

「あの二人とも、まだ説明終わってないのだけど」

俺と恋奈の不毛な会話を白々しい目で見つめてくる藤島さんに、俺たちは「あ、すみません」と後ろ頭をいた。

「ホスピタリティというのは、一言でいえば親切心。ファストフード店や百貨店、旅館、例の『夢の国』の接客でよく使われる用語よ。どういう意味かというと、ターゲットとなるお客さま、要はお金を払ってくれる人。その一人一人のお客さまに見合った最大のもてなしを与える、ということ。このホスピタリティこそが、このレシピコンテストでは不可欠なの。誰に食べてほしいか、誰にどんな献立こんだてを立案するか、そして自分の考えた献立を食べてもらうことでどんな気持ちになってほしいのか。その最大のもてなしを考えないといけないの」

ターゲット、転じて食べてもらいたい人。ここでは両親や、祖父母等が代表的だろう。

次にそのターゲットのニーズ。ニーズに応じたメニューの立案。そして考案したメニューの調理。

それはまるで会社の企画でもするかのように緻密ちみつで、その上料理も行う。

そんな一連の作業を一人で行わないといけないことに、俺は驚きを隠せなかった。

「そ、そんなに大変な作業、誰か立候補する人でもいるのか?」

「あたし深く考えるの苦手だから、こういうの絶対無理~」

「ほら、恋奈だって完全にお手上げだぞ?」

我がエースも、これだけは流石に出来ないらしい。我が部にそんな凄腕すごうでの生徒、他にいただろうか?


「心配は無用よ。実はうちの部員にもう一人、とっても優秀な生徒がいるの」

「え、他にいるの? そんな宝石のように輝いている人材が」

恋奈以外にまだエースがいるというのか?


「ええ。私たちのクラスメイトにいるの」

藤島さんがそう首肯すると、恋奈が「あ、そういえば基本幽霊だけど、凄い子いたなー」と心当たりがあるみたいだ。

そんな身近なところに逸材いつざいがいたというのか。


「入ってきていいわよ」


藤島さんがそう合図した後、入り口の引き戸から入ってきた生徒は、


「どうも」


村上宗太むらかみそうた君だった。

蚊の鳴くような声で、彼は挨拶あいさつした。

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