調理その十二 部内オリエンテーション開始!

「え、3大会とも全部うちが強いのそれ!?」

「そうよ。去年度の2学期の終業式で表彰されていたのだけど、何も知らなかったの?」

「ああ、全然知らなかった…」

「あなたって、今まで本当に文化部に興味を持ってこなかったのね」


俺のあまりの無知さ加減に、藤島ふじしまさんは持てる最大の肺活量を使って、盛大にため息をついた。


今朝の般若はんにゃのような藤島さんに打ちのめされてから放課後、家庭科室で部の説明を聞いていた。

今日の部活はしょぱなから、今朝の愚行ぐこうに対する説教で始まり、俺は「はい、さーせんした」と、ただひたすらに平身低頭へいしんていとうを続けていた。


そしてさっきから部長の話を聞いていると、我が料理部は3大会ある全国レベルの大会に毎年出場し、そのどれもが好成績を維持し続けているという。

それで、去年度も終業式で表彰されていた、ということだ。


「で、その3大会をこれから紹介していくわね」

俺は、部長がこれから話す内容に少しばかりか期待を持ちながら、首を縦に振った。

2年に進級したと同時に、まるで新生活の新成人のように、がらりと変わった自分のスクールライフ。

今後俺はどんな大会に出場し、そこでどんな力を発揮していくのか。

それが気になりだし、ふんすと鼻息を荒くして聞いてみる。


「まず、直近の大会としては、『全国高校生WASHOKUコンテスト』ね」

「わ、和食…」


料理スキルゼロの自分としては、和食は最も縁遠い存在だ。


もしかすると、世界各国の料理の中で一番難易度が高いんじゃないか。

その勘は、料理に一切造詣ぞうけいの無かった自分でさえも、そう直感してしまう程だ。


「あ、あの…」

「何かしら?」

「和食って、いきなり自分には敷居しきい高すぎやしませんかね」

「ええそうね。だから、あなたに出場してもらう可能性は微塵みじんも無いわ」

「さいですか」

俺の言ったことに対し、淡々と、かつドがつく程に毒を吐く藤島さん。

もうやる気なんて何処にいったのやら。空気の抜けた浮き輪のようにしおしおと力を抜きながら、俺は部長の話を聞くことにした。

「それもそのはずよ。8月上旬頃に金沢の方で決勝大会が行われるのだけど、予選として書類審査を通過しないといけないの」

「書類審査?」

「ええ、しかも期限は…5月下旬なの」

「そんなに早いの?」

「ええ。それに必要人員は2人体制で、当然まだチームメンバーは決まっていない。そして、もう4月も半ば。つまりは…」

「…ぼちぼちチームを決めておかないと、選考時期までに間に合わなくなるってことか」

「その通りよ結城君。いくら私でも料理において新米中の新米であるあなたに、いきなり和食の大会に出場してもらうなんて、そんなこくな真似はしないわよ」

「ああなるほどな」

あの毒舌部長である藤島さんが、最大限の配慮を持っていたなんて。当然のことかもしれないが、俺はちょっと驚いていた。

「そのうちの一人は、絶対藤島さんになるでしょ」

「まあ、そうなるだろうとは予想してるわね。誰も和食なんて難易度の高い料理に対して手を挙げてくれる部員も早々いないでしょうし」

「じゃあ、もう一人はどうなるの?」

「うーん、そうねえ…」


しばし考えた後、藤島さんは手の平返しの如く、次のようにねだってきた。


「結城くん、お願いできるかしら?」

「おい、3秒前に言った台詞忘れてんじゃねえ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る