調理その七 ホントは揶揄好きな部長
「は? え、へえぇっ!?」
思わず俺は
「だから、お金を持っているのって言ったのよ」
「ああいや、それは聞いてんだけど…金払わないといけないんすか?」
「当たり前じゃない」
当たり前なの!? 金取るのが
「あたし今金欠だから、そんな持ってないんだよねえ」
「俺は勿論あるけど、いくら払えばいいんだ?」
「ユーキ、財布の中こんもり諭吉さん入れてそうだもんね」
実際、金について右に出る者はいないだろう。俺を誰だと思っている? 日本
こんな俺がお金を持ってないなんて、あるわけないじゃないか。
余裕の表情を見せながら、わざと格好つけるように、制服の尻ポケットから長財布を取り出した。
そして、その中から——————、
「あ、あれっ」
中身をいくらあさっても、1万の価値のある紙切れは出てこなかった。
「何で一枚も無いんだよ…」
あろうことか、諭吉どころか英世まで無い。
昨日までは、確かに俺の財布の何には偉人が勢揃いしていた。
だが今日開けると、それがすっからかんだ。
一体どこで起きたのか。そして誰がそのようなことができるのか。
俺は脳内のありとあらゆるニューロン、そしてシナプスをフル稼働させ、今日あったことを回想した。
そういえば今日の財布、執事から手渡されたんだった。今朝の出来事が思い浮かぶ。
あれは、俺が無駄な金遣いをさせないよう、専属の執事が中身の札を取り出して、俺に差し出していたのか。全く余計な真似しやがって。
すぐにでも電話で抗議してやろうかと思ったが、今それをやってしまったら何だか負けな気がした。女子2人の前で、そんな器の小さい姿を見せてしまうのは、明らかにマイナスだ。
致し方ない。ここは白状することにしよう。
「前言撤回。すみません、お金持ってません」
「ええっ!? ユーキ中身すっからかんなの?」恋奈はぷぷぷとおちょくったように笑ってきた。
「人を見下したような言いぐさやめろ。ほら、小銭はちゃんとあるんだぜ」
そう言って財布の中を見せる俺。小銭自慢とか小学生かよ。何だか悲しくなってくる。
「あ、ほんとだー。お札は無くても、小っちゃい方はジャラジャラ入ってるんだねー」ほぼ棒読みのように、感情が入ってない反応を見せる恋奈。
「情けない話ね。お坊ちゃんがお金持ってないなんて」
鋭い眼光で俺に向かって
「め、
そう言った後に口を
あの執事ぃーー。何てことしてくれたんだ! おかげで俺はこんな
もうこれならいっそ普通に部の説明をしてくれた方がましだったなと、俺はそう後悔しかけた。
前を向くと、藤島さんはふふふと何やら不敵に笑っていた。
「お、おい。お前何笑って———」
「冗談よ、冗談。別にお金なんて取らないわよ」
「……」
その答えに、俺は節句してしまった。
恋奈に至っては「え、才ちゃん、急にどうしたの?」と、目の前の人を心配しているくらいだ。
「ごめんなさいね。結城君がどう場を切り出すか見てみたかったの」
藤島さんは相変わらず
「おい、今までの全部茶番なのかよ」
「茶番とは失礼ね。私が滅多に人前で腕前を見せつけないのは本当なのよ。貴重だと思いなさい」
「それはもうお前が頑固に断ってる時点で気付いてたって」
「本来、私が提供しているおもてなしには、それくらいの価値があることなのよ」
「…わかったよ、承知しました。で、その才能を、今から見せてくれるってことなんだよな?」
「あなたのために特別にね。仕方なくよ」
「相変わらずさっきから出てるその恩着せがましい態度が気になるが、まあそうこなくっちゃな」
そう言いいつつ俺は、鼻の下を指でこすった。
「あなたの偉そうな口、きっと1時間後には何も言えなくなるわよ」
こっちに向かって小悪魔のような笑いを浮かべ、顔を近づけてくる藤島さん。
「へっ、勝手にほざいとけ」俺はそう吐き捨てるように言った。
部長がもてなす、1時間のフルコース。
果たしてそれが如何なるものか。お手並み拝見といこうじゃないか。
一方の恋奈は、
「え、こんな才ちゃん今まで見たことないんだけど…」
と困惑していて、一人だけ場の雰囲気に置いてけぼりになっていた。
そして、1時間後。
俺は自分が言い放った軽率な発言を後悔する羽目になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます