調理その十一 突然の不調

始業式の日から数日たったる日の放課後、生徒たちは早々に帰宅していったり部活に行ったりと、別々の方面へ散っていく。

俺はというと、校舎から離れた体育館へと足を運んでいた。

今日から、バスケ部の練習再開だ。

一番使いやすいボールと、一番フィットするバッシュ。

コートが近くにさえあれば、この2つで何処でもバスケが出来る。


校長から退部命令を下されたが、結局のところ自分はどうなんだろうか?

昨冬、WCウィンターカップに出場できたことでひとつの目標を果たすことができた。

そうしたら次のステップアップは、後輩部員を連れてIHインターハイに出場することではないか。

今年から入部してくる可愛い部員のために、自分が指導し、後世に繋げることが必要なのではないか。

そして、どうせ目指すなら主将キャプテンの立場になって、皆を引っ張っていきたい。

それまで漠然としていた希望が、今形になりかけてきていた。


この世は所詮、偉い奴の言いなりになって動いている。

だが、学校の偉い奴が何だというんだ。会社の偉い奴が何だというんだ。

そういうやからからの欲求に「はい、わかりました」と従う程、やわな人間に生まれた記憶なんて微塵みじんも無い。

俺は操り人形なんかじゃない。俺はロボットなんかじゃない。

俺は俺で、


体育館までの道中、そんな風に俺の野心が再燃していた。

試合をするまでは、その意気込みでいられた。


だが、問題は試合を開始してから、起こった。


ガンっ!


アウトサイドからのスリーポイントシュートを、俺は見事に外してしまった。

いつもだったら、音もたてず吸い込まれるようにネットに入っていくのだが、

ゴールリングに当たるのみで、網には全く触れることなく、命中に失敗してしまった。


ダムっ。


圧倒的な速さを得意としていた自分のドライブも、途中でボールを外してしまう有様だ。

ボールがフローリングの床を不規則にバウンドし、その間隔が段々短くなっていく。

いつもなら、バウンドする音なんて何の気にもならなかった。

だが今だけは、異常なほどに聞き苦しい。

ミスする度に発生するそのリズムに、徐々に心が痛んでいく。

「おいユーキ! お前今日随分調子悪いな! 大丈夫か!?」

「具合悪いんか? 暫く休もう!」

「無理すんなよー!」

チームメイトから心配する声が相次ぐ。

相手チーム側も、信じられないと言わんばかりに目を丸くしている。

無論こんな自分は初めてだ。

シュートを外すのは百歩譲ってまだあり得るとして、ドライブが出来ないのは明らかにおかしい。


練習が終わり、悶々もんもんとした気分を抱えつつも体育館を後にした。

扉を開けた時に見えた夕日は、苛立いらだつほどに輝き、悲しいほどに美しかった。

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