調理その八 小柄な美少女
時速130kmの田舎にしてはやけに速い普通列車に揺られながら、俺と三春は学校からの最寄り駅である日立駅に到着した。
ここ日立駅は、市内出身の建築家のデザインによって設計され、
通常の駅舎なら終電が過ぎると、シャッターを閉めてしまうが、この駅は駅舎自体が観光名所になっているので、24時間誰でも入れるようになっている。
改札を抜け、中央口までの長いコンコースを抜けた俺は、妙に縮こまって歩いている小柄女子に他愛もない世間話をしてみた。
「みはっち、学校と部活の両立は上手くいってる?」まあよくある定番のトピックだ。
「文武両道の優等生がそれ聞いてくると、嫌味にしか聞こえないんだけど」だが三春は、そんな俺の聞き出しに鋭く
「そんな勘繰るなって。他意は無い。前みたいにまた何か悩みがあったら、俺に相談してくれれば良いからさ」
「う…うん」
そうしたら今度は急に顔を赤くし、目を
うーん、乙女心というのは難しいんだな。
「で、どうなの最近?」
「今のところは大丈夫かな、問題なくやれているよ。確かに去年の冬頃はあたしどうかしてたけど…」
そう言って、三春は言葉を続けた。
「あれがあったからこそ、今の大丈夫なあたしがここにいるんだと思う」
「そうか」俺は、彼女がすっかり元に戻った様子を見て、安心することが出来た。
三春だって、以前よりは確実に成長してるんだな。そんな気分にとられ、思わずほっこりした。
「てか、そういう結城は学校と部活、どうなのよ? あたしだけ話して不公平よ」
「えっ! 俺!?」三春に釘をさされ、思わずぎょっとした。初めてここで、自分が墓穴を掘ってしまったことに気が付いた。
邪念を払っていた自分の頭の中に、また藤島さんという悪魔が
学校の方はともかく、部活の方では今、絶賛退部を命じられている。
そんな大問題に局面していることを、彼女から勘付かれるわけにはいかない。
「ま、結城なんかに聞いても、絶対順調なんだろうね。聞いたあたしが野暮だったわ」
「そ、そうだよ。俺が上手くいってないなんて天と地がひっくり返ってもあり得ないさ」
俺の放った台詞はやけに早口だった。背中からは、一滴の汗がつうと下に降りていく感触がした。
そんな不自然なリアクションに三春は、
「そこはさ、上手くいってたとしても否定しようよ…」
と、呆れたように溜息をついていた。
駅前の交差点で信号待ちをしている最中、三春がふとこんなことを俺に聞いてきた。
「そういやさー、先週頃だったっけ。結城が、練習場所と全く離れた職員室の方に歩いているのを見かけたんだけど」
「っ!! ゲホっゲホっ!」
「ちょっと結城大丈夫!?」
驚きのあまり唾を飲みこんだ瞬間、
三春も、俺が急に
どうやらまだ
「大丈夫。気にすんな。丁度顧問に用事があったんだよ」ひとまず、その場
「え、男バスの顧問ならその日、うちら女バスの顧問が休みだったから代わりに見てくれてたんだけど」
「うそ、まじっすか」
三春は「うん」と頷いた。
「あ、ああ! あの日ね! あの日は確か、クラスの担任に用があったんだよ俺!」
嘘に嘘を重ねてしまった。あくまで無理やり彼女とあの日に関して
「正確には元担任か」
校長室に行ったとき、クラス担任がいたかどうかは確認できていなかった。少なくともいなかったと思う。
つまり、三春も当日職員室に行っていたら、この言い逃れはいともたやすく嘘がバレてしまう。
「ふ~ん」
三春はどこか納得いってなさそうだが、
「ま、良いけど。あんたも忙しそうね」
と、問いかけるのを諦めて、ふふっと笑ってくれた。
俺は内心、かなりほっとしていた。
「てか、春休み期間でも休まず部活行ってたんだなお前」
「そうね」
「男バスは休みの日とかもあったのにさ」
「えええ…、男子の方は休みあったの?」そう言って三春は、げっそりした顔色を見せる。
「お前も十分大変そうじゃん」
「そうみたいね」三春は「あはは」と、ひたすら苦笑していた。
「でもお前みたいな、好きなことにとことん努力して頑張ってく人って、嫌いじゃないぜ」
「えっ」
三春には、これからも頑張ってほしい。俺はそんなエールのため、
それは、思いのほか効果が効き過ぎたみたいだった。
信号が青になっていたので、俺は歩き始めていたが、彼女の方はまだ一歩も前に出ていない。
「どうしたー!? 先行っちゃうぞー!?」
俺は三春の様子が気になり、後ろの歩道に向かって声をかけた。
「あ、ごめん。今行くー!」
はっと我に返った三春は、急いで俺の待つ歩道の方へと駆け寄った。
藤島さんが
いつもはツンツンした口調が多いが、笑った時や怒った時に無意識に出てくる子動物のような可愛さ。
気が強い中に時折見せるあどけない一面が、まるで赤いチューリップのようだった。
そんな無駄な妄想に
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