調理その五 物産店のオヤジ

その後一人で回るより、二人で行くほうがお互いの趣味や興味が共有できるからということで、一緒に回ることになった。

最初、入部する気は無いから別にそんなことまでしなくても良い、と俺は断った。

だが、いずれにしろクラスメイトであることには変わりないし、万が一夜道で知らない男とかに声をかけられたりしたら、とあり得ない妄想もその時してしまい、結局承諾することにした。

自分より弱い者を守れる人になれ、という家訓がうちにはあり、それを思い出したからだった。


書店を出て二人で行ったところは、南口方面の物産店。

藤島さんがこのエリアに用があるということで、俺は彼女についてきた。

ここには、「いやどうも」や「水戸納豆」といった、茨城の名物が数多く陳列されている。

その店の多くは観光客向けだが、時々中部地方や九州地方からのフェアも度々やっており、地元民にも優しい。

そんな見慣れたコーナーで、一体藤島さんは何をしようとしているのか。

気になったので、彼女に聞いてみることに。

見てみると、何やら当人は並んでいた総菜や漬物、和菓子を見ながらうんうんうなっていた。誰にも聞こえないような小さな声量で。


「何やってんだ」

俺は、こっちの世界に戻らせてあげようと、彼女の耳元に近づけてみた。

「きゃっ! ち、ちょっ…!」

黄色い声を小さく声に出し、片足を高く上げて驚いていた。

その勢いで体勢を崩し、後ろにコケそうになったので、俺はすぐさま彼女の背中に手を回した。

「お、と。危なかったな」

「あ…ありがと」

何とか周りからの注目を集めずに済んだ。駅前なんて特に人の多いところだ。

こんなとこで転倒するのを見られるなんて、最悪な展開に違いない。

「すまん。あまりにも一人で考え込んでいたからさ」

「私は大丈夫だけど。それより、これどういう状況?」藤島さんは額に冷や汗をかきながら、今身に起こっていることに疑問符を投げかけた。

ぶらぼー。

俺と藤島さんの様子を見てみると、まるで舞台オペラに抜擢ばってきされた主演歌手のように、

周りも見ると、二度見をしている人や笑いを堪えている人がちらほらと。

どっちみち視線を集めるオチに変わりはなかったようだ。

「おや、二人とも熱いねえ!」

横でガハハと笑っている店員と思しきオヤジに気付き、俺と藤島さんは一気にオペラ歌手から一般人へ、体勢を元に戻した。

「「す、すみません」」

俺達は、ただただ苦笑いをすることしか出来なかった。


「君たち、この辺の学生さんか?」

「あ、はい。私と彼は同じ学校の生徒です」

「おおそうか。ならお嬢さん、これやるよ。相当欲しがってたみたいだからさ」

学生に対してのサービスだろうか、店員のオヤジは茨城独特の訛り方で喋りつつ、先程藤島さんが手に持っていたのと同じ製品の干し芋を2パック、彼女に差し上げた。

そんな店主のご厚意に対して藤島さんは、

「い、いや大丈夫です。しっかり払いますから」

と、手を横に振って遠慮していた。

「いいっていいって。オレは若い娘には弱いからのぅ」

だがオヤジもそう言ってサービス精神全開だ。

「なら尚更です。お金を払ってきちんと利益に貢献します」

「んなこたぁ気にすな。オレの心配なんぞしなくて良いから。金なんて要らない。貰った貰った」

二人とも頑固だなあオイ!

と、

それはもう、互いに抵抗し合ってくっつくことのない同極の磁石のようだった。

このままだとらちがあかないので、俺が中に入る。

「まあまあ、折角お店の人がそうサービスしてくれてんだからさ、ここはお言葉に甘えて良いんじゃないか?」

「そ、そう…?」

どこか納得いってないようにも見えたが、藤島さんは俺の言葉に同意してくれた。

俺は心の底から安堵あんどの息を吐いた。それはオヤジも同じようだった。

そして干し芋が入ったレジ袋を藤島さんに差し上げたとき、オヤジはこんなことを俺に向かって言ってきたのだった。

「お嬢さんえらく別嬪べっぴんさんじゃねえか。だから彼氏さん、きちんと頼むよ」

見事に勘違いしてる、このオッサン。

最初の印象もあってか、完全にバカップルだと思われてるぞこれ。

「「いえ、付き合っていません!」」

俺と藤島さんが放った台詞は、偶然にも全く同じタイミングで、全く同じ否定だった。

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