第30話

「危ねぇ!」

 僕は明日香と桜を掴み、逃亡する。

 突然の出来事。

 今まで感じていた悪寒、それが明確な死の気配へと変貌を遂げた。

 死の気配が何なのか、それを確認することもなくただただ一目散に逃亡する。

 確認する時間もない。

 おそらく見れば、相対すれば、必ず殺される。その確信が僕の中には会った。

 だがしかし、それは許されない。

 僕の前に壁が現れ、逃げ道を塞がれる。

 僕は明日香と桜を投げ飛ばし、反転。

 僕は死の気配へと飛びかかる。

 必ず二人は守って見せる。

 今度こそ、今度こそ守るのだ。

「【傲慢の権限:聖典:神刀】輝け、聖剣」

 死の気配は僕の一撃を容易く受け止めた。

 死の気配。

 それは僕も未だ見たことない存在だった。

 黒い人間。

 気配も、魔力も、何もかも感じさせぬ黒い人間。

 背丈は僕と同じくらいで僕と同じように刀を持っている。

「ふっ」

 僕はがむしゃらに刀を振る。

 相手の一撃を避け、刀で受け、たまに返す。

 当たれば敗北。

 そんな気配を容易く感じる事ができた。

 だが、こちらの攻撃は一ミリも届いているようには見えない。

「『守れ!獅子共!』」

 僕は魔法を多用し、なんとか耐えようとするも一瞬で魔法はなかったことにされる。

 クソ!

 魔法じゃ無駄だ!

 僕は、魔眼も、未来予知も、僕が取れる手段その全てを用いて対抗せんと努力する。

 魔法で無理やりリミッターを外し、限界を越えさせる。

「くっそ!重い!」

 僕は刀で黒い人間の一振りを受け止める。

 しかし、僕の腕にかかる負担は、ダメージは大きく、腕がしびれて段々と感覚がなくなっていく。

 無理やり魔法で限界を越えさせているせいか、頭が沸騰し、自分が自分であるという感覚がなくなっていく。

 だが、相対的に黒い人間への認知は強く、はっきりとしてくる。

 体が動かないなんて幻想だ。

 動かせ。

 動かせ。

 動かせ。

 動かせ。

 動かせ。

 諦めるな、戦え、守れ!

 どれほど、足掻こうとも。

 どれほど、もがいても。

 限界が訪れた。

 プツリと感覚が途切れる。

 今ままで手にとるようにわかっていた黒い人間の動きがわからなくなり、そして、体が笑ってしまうくらい動かなくなる。

 僕は呆気なく吹き飛ばされた。

「「零!!!」」

 明日香と桜の悲痛な叫び声が僕の耳に届き、二人のもとに歩み寄っていく黒い人間の姿が僕の目に入る。

「う、あ、あぁ」

 駄目だ。

 駄目だ。駄目だ。駄目だ。

 守らなきゃ。守らないと。守らなくては。

 あぁ、嫌だ。嫌だ。嫌だ。

 嫌だよ。

 また、また、また、僕は守れないのか。

 また繰り返すのか!

 そんな僕の意思とは裏腹に体は徐々に力を失い、視界がかすみ、声が、音が届かなくなってくる。

 そして……。

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