第31話

「「零!!!」」

 私は倒れた零を見て叫んだ。

 そんな……そんな……。

 零が、零が負けるなんて……。

 どさり。

 私の隣に立つ桜が倒れ、失禁しているのが目に写った。

 そうだ。私は桜より先輩なんだ。桜よりも強いんだ。零が負け、倒れた以上私が守らないと!

「しっ!」

 私は自分の手に持つ弓にありったけの魔力を込めて放った。

 今できる私の最高の一撃。

 しかしそれは、目の前に迫りくる黒い人間に何の効果も与えなかった。

「くっ!」

 何度も何度も何度も何度も!

 諦めず、こころを奮い立たせて弓を引くも意味はなさない。

「あ、あぁ、あぁぁ」

 黒い人間は段々と私達に近づいてくる。

 そうだ。

 零が負けた存在を相手に私なんかが、対抗できるはずがなかった。

「あ……いや」

 生暖かいものを感じる。

 わ、私は、私はここで死ぬの?

 死への恐怖。

 それが私を襲い、私は絶望した。

 そんな中、視界の端に零が立ち上がるのが見えた。

「零!」

 私は叫ぶ。

 零が!零が!私の英雄が!

「ふふふ、私の出番かしらね?」

「零?」

 普段とは違う零の口調、雰囲気に私は疑問の声を上げる。

「固有スキル【英雄之伝説】」

 の周りを暖かな光が覆う。

「『体現せよ、英雄たちの軌跡を。英雄たちの栄光を。掲げけよ、英雄たちの剣を』」

 この世界にいくつものヒビが入り、そこから幾千もの剣が、武器が、神器が、姿を表す。

 これが……英雄の……。

 本能が、これらが人々を守りし英雄たちの剣であることを理解していた。

 本能が畏怖する。本能が恐れる。本能が感謝する。

 偉大なる英雄の剣に、偉大なる英雄の軌跡に。

「さぁ、終わりにしましょう?」

 一斉に発射される。

 英雄たちの武器が。

 終わりなき無限の攻勢が、無限の英雄譚が、今始まる。

 終幕は一瞬であった。

 黒い人間に容赦なく英雄たちの武器が襲い、蹂躙した。

 避けることも、防ぐことも許さぬ無限の武器は黒い人間を一瞬で串刺しにしていった。

 そして、細切れにされた黒い人間は魔石も残さず、黒い靄となって消えていった。

「す、すごい」

 私の口から感嘆の声が漏れる。

《ユニークスキル【嫉妬】を獲得しました》

「え?」

 当然私の頭の中に、女の人の声が響いてくる。

 えっと、確か、この声は……。

 そうだ、初めて魔物を殺してステータスが開放されたときの。

 それにしてもなんで?

 一体何でユニークスキル【嫉妬】を獲得するの?

 私は何もしていないのに。

 バタンッ!

 私が意味がわからず困惑していると、いきなり零が倒れた。

「零!」

 私は慌てて零の方へと駆け寄った。

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