第8話 3人の出会いとリズディアの結婚
南の王国にリズディアとイルルミューランが留学した際、一つ上にジュエルイアンが学年主席として在学していた。
その時の縁でイルルミューランとジュエルイアンの交流が始まる。
イルルミューランもジュエルイアンも、商会を運営する親を持っていた為、考え方が似ていたことで気が合ったのだ。
1年早くジュエルイアンが卒業となるので、卒業後の身の振り方を聞いたイルルミューランが、最終的には父の商会に入るが、暫くはどこか違う土地で武者修行をすると言ったので、イルルミューランは、何の伝もないまま知らない土地で働く事もできないだろうからと、帝国で自分の父親が運営する商会を勧めたのだ。
ジュエルイアンは、武者修行の為に卒業後暫くイスカミューレンの商会で働く事となるが、その後、南の王国へ戻り、自分の父親の商会を継いでいる。
その際に、帝国内でも商人としての地位を築いていた為、ギルド帝国支部設立時にはジュエルイアンも貢献できた。
南の王国に留学した事で、更に婚期が遅れてしまったリズディアなのだが、婚期が遅れた事で、同世代の未婚者が居なくなってしまい、再婚の男性か、歳の離れた年下の男性しかいなくなってしまった。
皇帝エイクオンは、自分が溺愛する第一皇女であるリズディアが、そのような男の元に嫁がせるのを嫌った。
そんな事を考えていた皇帝に、イスカミューレンが、自分の息子イルルミューランが、年頃であるにも関わらず未婚である事を、困ったフリで皇帝に話をした事で、皇女リズディアをイルルミューランに嫁がせる事を思い付かせたのだ。
小さい頃から、知っているイルルミューランならと、皇帝に結婚話をされるが、イスカミューレンは、身分の違いから断っている。
「結婚は本人達の意思によるもの。 それに爵位も持たない下級貴族である私の息子に、皇女殿下を嫁に貰うなど、私には恐れ大き事でございます」
そう言って断っている。
しかし、皇帝は愛する娘の幸せをと思い、本人の意思と言ったイスカミューレンの言葉を思い出して、リズディアにイルルミューランとの結婚話をしている。
皇帝であるエイクオンは、まず、リズディアに話を聞いた。
いつもであれば、学業がと言って断るリズディアであるが、その時は、俯いて何も答えなかった。
皇帝は何時もの様に断れなかった事で、小さい頃から面識があるイルルミューランに想いを寄せていると考え、皇帝自ら二人の縁談を進めたという。
イルルミューランに想いを寄せていると考えた皇帝は、イルルミューランを呼んで、歳上であるリズディアについて問う。
「小さな頃から、高嶺の花と憧れておりました。 遠くから、お姿を拝見させて頂けるだけで幸せでしたが、南の王国の大学で、御学友として、お側にいられた日々は、私の宝物で御座います」
イルルミューランとすれば、形式的な話をしただけなのだが、エイクオンは、その言葉に脈有りと考えたのだ。
「その高音の花を、娶ることが出来たら、そちはどう思う」
皇帝にとんでもない質問をされてしまったイルルミューランは、答えに困ってしまった。
だが、皇帝の質問に答えないわけにはいかないので、イルルミューランは、少し考えたのちに、差し障りの無い答えをしている。
「恐れ多きこと。 そのような事は考えることも恐れ多い事です」
濁した言葉で答えるが、皇帝はそれでもと聞いてくるので、仕方なくイルルミューランは、誰もが一般的に考えるだろう事を答える。
「もし、そのような事になったのなら、私の人生は、生涯、薔薇色の日々が続くでしょう」
社交辞令的に答えたイルルミューランの言葉に、皇帝は互いの気持ちも確かめたとして、イスカミューレンに、その勘違いを伝える事になった。
「二人は共に恋い焦がれている。 そのような二人の恋路を親同士が割いて良いものか。 この縁談は皇帝の名の下に進めさせる。 良いな」
皇帝は、そのようにイスカミューレンに伝えると、イスカミューレンは、仕方無さそうな顔で答えたのだ。
「皇帝陛下にそこまで言われては、断ることも出来ません。 謹んで承ります」
そう伝えた。
親が友人関係と言っても、皇族と下級貴族の結婚で、皇女が下級貴族に嫁ぐとなっては、上級貴族は黙っていなかった。
矛先は皇帝ではなく、イスカミューレンに向けられた。
皇族との親戚関係を下級貴族に持たせる事を嫌うのは、以前から皇室と血縁関係にある上位貴族である。
特に、三大公家ではなく、その三大公家に続く上位貴族達からの反発を受けた。
新たな血縁関係が増える事で、権力争いに障害が発生する事を嫌い、その縁談を皇帝に断るように迫られた。
しかし、イスカミューレンは、そういった貴族に対して、縁談を断る仲介をして欲しいとお願いした。
「皇帝陛下から下された縁談で御座います。 当家としても、そのような縁談は身分不相応として一旦はお断りしたのですが、再度、皇帝陛下より、縁談を命令されてしまいました。 皇帝陛下のご命令と有れば、当家からお断りする事は、不敬となります。 そこでご相談なのですが、出来ますれば、御家から皇帝陛下にお口添え頂き、この縁談を無かったことにして頂けないでしょうか。 そして、リズディア殿下に、新たなご縁談を纏めてはいただけないでしょうか」
そう伝えると、どの家も黙ってしまった。
どの貴族の家にも、リズディアに、釣り合いの取れそうな男子が居ないことは、イスカミューレンには分かっている。
イスカミューレンは、探しても釣り合いの取れそうな相手が居ない事で、上級貴族の家々は、破談にする方法を失う。
リズディアとイルルミューランの縁談を、皇帝に断る理由見出せずにいる。
困った上級貴族達に、イスカミューレンは、婚姻がなった後の妥協案を上級貴族達に話をしている。
「我が家は、今回の婚姻がなったとして、皇女殿下とその子孫について、皇位継承権を永遠に放棄したいと考えております。 出来ましたら、御家のお力で、そのように、お取り計らいできないでしょうか」
イスカミューレンは、上位貴族たちに、万一、2人が結婚してしまった際の相談もしている。
イスカミューレンは、上位貴族達の思惑の中で、ギリギリ、了解できる案も用意していたのだ。
イスカミューレンとしては、リズディアを取り込めれば良いので、皇位継承権が残ってしまった場合、何らかの形で皇位継承争いに参加させられる事を嫌ったのだ。
皇位継承に興味がある上級貴族としては有難い話と納得して、後に婚姻の際の皇位継承権の返上を申し出たリズディアに、皇帝以外の全ての貴族の合意で了承された。
なお、イスカミューレンが上級貴族との間で、皇位継承権を末代まで放棄する事を条件に上級貴族達と密約を結ぶ事で決着させたが、それなりにお金の掛かる物を送って納得させている。
そして、リズディアが33歳、イルルミューランが29歳の時に結婚が成立した。
また、リズディアとイルルミューランの結婚の際は、皇族の結婚式の様な豪華なものではなく、身内だけのもので行われた。
それは、末代まで皇位継承権を放棄する事で、皇族から抜ける事が条件のため、大掛かりな婚礼は行われなかったのだ。
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