第2話 ツ・バール国の建国


 クインクオンのお陰で、北の王国は、東街道の交易路を確保したことで、南の王国へ最短で抜ける街道を確保すると、クインクオンは、北の王国に東街道の交易路を確保した引き換えとして、国として認めさせる事を求める。


 北の王国は、当時の約束をどうしようかと考えていたが結論は出ず、ただ、クインクオンが居なくなってしまった場合、東街道を使った交易ルートの確保ができないので、クインクオンが、何も言わない限り約束について、触れる事は無かったのだが、クインクオンが求めてきたことで事態は変わった。


 クインクオンは、交易路の確保がなった事で、北の王国へ約束の事を告げて、国として認めてくれないか話をすると、北の王国は、魔物の討伐を行なって街道の確保ができると考えていたため、クインクオンの要求を渋ったのだが、妻を亡くして娘と二人暮らしをしていることに目を付ける。


 娘を溺愛していたクインクオンに、娘を側室として向かい入れ、王女を嫁に入れる事と、代々の長女を北の王国に人質として差し出す事を条件に、建国の許可を出すと条件をつけてきた。


 クインクオンは悩んだのだが、娘が北の王国の側室に入ると言い出した事で、クインクオンも自分を納得させた。


 また、クインクオンの娘が、代々の長女を人質に出すには、王女1人では不足であると主張して、王女をもう1人側室としてクインクオンの元に送ることで建国に至り、ツ・バール国を興す。


 ただ、北の王国の王女と言っても、国王が身分の低い王室で働いていた下女を孕ませてしまったため、やむなく側室にした王女達なので、後宮と言っても、別の奥まった小さな家に押し込まれて、王室のような煌びやかな暮らしではなく、庭に畑を作って、提供された食料の足しにするような生活をしていた王女を押し付けられている。




 一方、ツ・バール国の国王となったクインクオンは、その後も街道での隊商の警備を行うが、国が興ったことで、魔物を遠ざける方法を自分のメンバーに伝授すると、警備は任せて不毛地帯で作物を作り出す事に乗り出す。


 新たに作れた作物は、穀物だった事が幸いして、農地の拡張を行うこととなる。


 それは、クインクオンの時代から約120年に渡って穀倉地帯の拡充を図り、その際に近隣諸国から、農家の三男坊以下の住民の移住を許可した。


 移住にあたっては、戸籍の管理の簡素化のためと称して、名前をファミリーネーム・ミドルネーム・ファーストネームにする。


 移民に名乗りを上げた民は、名前の事より、農地を持てる事の方が重要なので、移民に際して名前の名乗り方を帝国の方式に変えている。




 当時の大陸の各国の食糧事情は、凄惨な時期で、農家といえども食べる物に苦労していた時代だったのだが、クインクオンが、東の森の西に位置する不毛地帯に農地を作り、作物を作る事に成功したことで、自分のメンバーの中から農家になりたい者を募った。


 また、時々、話を聞きつけて、ツ・バール国に流れてくる農奴待遇の農家に、土地と作物の種子を与え、作り方を移住者に教え生活の保証をすると、徐々にその話を聞きつけてツ・バール国に来る農家や農奴が増えてきた。


 ツ・バール国内の自給率100%を達成すると、今度は、他国に働きかける事にした。




 どの国でも、不足する食料問題があったので、土地を持たない農家の三男以下の食い扶持に困っていた。


 農家の次男以下については、土地を持てないため、成人すると実家の近所に家を作り、実家の農業の手伝いで、生計を立てていたのだが、彼らの生活は困窮しており、とても嫁を持って暮らしていけるような状態では無かった。


 ツ・バール国は、近隣諸国のそんな事情を見て、農家の三男以下の農民を、帝国に引き抜くことを考えた。


 どの国でも、自分が食べるだけで精一杯の、三男以下の農民の問題は抱えていたので、帝国の申し出はありがたい申し入れだったのだ。


 農民の移住については、大きなトラブルになることなく、近隣諸国の農家の三男以下が帝国への移住を許した。


 その事で、ツ・バール国の人口は一気に増え、農地開発も進み、食糧輸出国としての面も出てきた。




 ただ、募ったのは、人属のみで、亜人やエルフ・ドワーフといった人種は断った。


 理由は、この大陸に住む人属が圧倒的に多いことからが、大きな理由だった。


 また、人とエルフ、ドワーフと亜人など、多種族同士の混血が生まれない事がある。


 そのため、種族間でグループができてしまい、グループ間のいざこざになる事もあるので、人属に限定したとも言われている。




 ツ・バール国は、建国間もない時期なら、種族を問わず受け入れるべきなのだろうが、隣接する国は全て人属の国だった事もあって、近隣諸国に配慮したとも言われている。




 農地の拡張は、約120年に渡って行われ、ツ・バール国の穀物が、徐々に各国に行き渡るようになる。


 それによって、ツ・バール国以外の国の食料問題も解決に向かった。




 穀倉地帯の拡充がすすみ、他国への安定供給も可能となってから約100年が過ぎ、帝国は財政的にも安定した時代になった。


 また、近隣諸国は、帝国に穀物を依存することで自国の食料問題が解決される中、他国では作り難い穀物より、高額取引される嗜好性の高い作物の作付けが盛んになり、嗜好作物を売って、穀物を買う農家が増えてくる。


 食料事情も安定したことで、帝国も近隣諸国も食料の安定供給が可能となり、どちらの国も人口も増加し、共存体制が整った。

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